「求める理想は実現する」 その127
「未体験ゾーン」での旅館経営

Press release
  2009.3.7/観光経済新聞

 いま、経営は「未体験ゾーンに入った」と筆者は考えている。これについて4回にわたって書き進めたいと思う。

その前段として、バブル経済が崩壊した後の状況を振り返っておきたい。バブル崩壊によって、それまでは「相応に集客をできていた」という状況が一変し、同時に客単価も急激にダウンした。いわゆる価格破壊が始まり、消費者の価格志向が一気に顕在化した。これが、右肩上がりで推移してきた業界に強烈なショックを与えたことは、いまだに生々しい記憶として消えることがない。その後は、平成不況や「失われた10年」といわれる低迷期を体験するわけだが、そうした流れの次には、いざなぎ景気を上回る戦後最長の景気拡大が続いた。もっとも、この景気拡大期は、好況感の伴わない景気拡大だったというのが本音だろう。

こうした10余年を経たことで、バブル経済への反省ともいうべき発想も生まれた。バブル期よりも半減した単価を「常態」と捉え、そこから経営を再構築しようとする姿勢が顕著になった。バブル崩壊直後に吹き荒れた人員削減が一辺倒のリストラから、経営のスリム化や効率化に向けたマネジメントの洗い直しへと視点が移りはじめたわけだ。背後には、人員削減だけでは旅館の伝統的な接遇が維持できないこと、あるいは設備投資に欠かせない融資が受け難くなったことをはじめ、いくつかの要因がある。発想を転換した抜本的な施策が必要となったわけだ。筆者が永年にわたって提唱をし続けていた「構造改革」に注目する旅館が増えたのも、その1つの証左と受け止めている。

さらに、そうした長い思考期間とともに、「冬の後には春が必ず訪れる」の例えではないが、過去の経験則に照らした景気循環論から、厳しい中にも経営修復への期待も芽生えはじめてきたのが、昨年までの状況だったと考えられる。

ところが、アメリカ経済の破綻に端を発した世界的な不況によって、立ち直りを見せ始めていた景況がドラスティックに一変した。「冬の次に再び冬が訪れた」わけであり、再び訪れた冬は「厳冬」でさらに厳しい。筆者流にいえば旅館の経営は、積み木崩しの「将棋の山」対して、周辺部と裾野の駒の一部を削り取ったのがバブル崩壊後だった。それによってグラつき始めた将棋の山から、さらに駒を取り去るゲームを続行させられているような状況に、現在は陥っている。それが冒頭の「未体験ゾーンに入った」という言葉にほかならない。積み将棋の山を崩せばゲームオーバーだが、経営者にゲームオーバーはあってはならない。

さて、現状の旅館経営に話を移そう。まず、2つのファクターを考える必要がある、第1は、価格志向によって常態化した低価格帯の客層を、謝恩企画をはじめ何らかの名目で年間にどれだけ集客しているかだ。現状では、部屋数をベースに年間で算出してみると2〜3%ぐらいしか得ていないのが実態だ。ところが、稼働率を弾き出すためには、低価格帯を少なくとも1015%は集客しなければ、今後は成り立たなくなる。第2のファクターはGOPだ。実情に照らしてみると多くの旅館では、GOP15%どころか10%を切っている。これでは、次の一手に打って出るためのハードもソフトも展開がままならない。

この2つのファクターから言えることは、想像を超えたジレンマが生じることだ。客室稼働率を稼ぐ一方で客単価は1割ぐらい減少する。それは、GOPがいま以上に圧迫されるという現実にほかならない。これが「未体験ゾーン」の実態なのだ。

では、乗り越える策なないのか。答えは「ある」と断言できる。それが本稿で書き続けている「料飲率(料飲高)」のコントロールだ。例えば、低価格帯に対応した1万円の客単価で、料飲高が8000円もかかる従来オペレーションでは、室料分が2000円しか残らない。これでは、経営が成り立つべくもない。逆に室料6000円を確保すれば、料飲高は4000円でこちが成り立たない。そこで、オペレーションの見直しが不可欠となる。

(つづく)