旅館がオープンマーケットに打って出た時に、「○○旅館」と言う呼称で集客できるのは、GOP確保に必要な客数の40%ぐらいだろう。例外もあるが、それさえ難しいのが現実かもしれない。言い換えれば、従来型の1泊2食・部屋食スタイルの限界がそこにある。それが、いわゆるブランド力の世界だ。
したがって、残りの60%は何らかの手立てで集めなければならない。答えは単純であり、消費者に訴える魅力を備えることに尽きる。だが、言うは易く行うは難しで、形にはまった接客スタイル、工夫に乏しい大浴場、特色のない定食型のお仕着せ料理などのままでは、どこを探っても魅力など生まれない。さらに、特色がないまま価格志向に走った場合、経営数字をあげるまでもなく、そこにも限界がある。GOPを出せない経営などあり得ないからだ。
そこで前回は、送迎によって近隣マーケットに打って出る事例を示した。消費者にとって「旅館の魅力」とは考えにくい送迎が、実は今日的な視点で捉え直すと魅力であり、差別化の大きな要素にもなっている。もちろん、送迎が集客の絶対的な手法だとは言わない。その手法を活用する仕組みとノウハウの具備――と言った条件が不可欠だからだ。
こんな言葉をしばしば耳にする。「高く売りたいが、高くては売れない」と言うボヤキだ。考えなければならないのは、なぜ「高く売りたい」のかと言う発想だ。旅館にとって単価アップは永遠の課題だが、GOPが連動しなければ意味がない。多少乱暴な表現だが、8000円で1万人と1万円で8000人を集めたとき、帳簿上での最終的な数字は8000万円で同じだが、GOPに対する意識と仕組みの違いによっては、数字の意味が大きく違ってくる。肝心なことは「室料として必要な額」を明確にし、マーケットプライスを勘案して「売れる単価」を見定めているか否かにある。
そこで、セグメントが極めて重要な要素となる。前回例示した送迎による集客にしても、闇雲に打って出ただけでは勝算に乏しい。要は、価格に見合った料飲率の設定、そしてサービスを提供する仕組みが背後になければ、GOPアップにはつながらないと言うことだ。
これが、セグメントを明確にしなければならない最大の理由と言える。視点を換えると、自館の旗色を明確にアピールすることでもある。例えば、某チェーンのように「7000円台の安さ」に徹底するのも1つの訴求方法だが、そうした場合の定番はない。単なる価格志向だけでは限界があることを、バブル崩壊後に経験した。やはり、自館ならではの特色を十分に反映させる訴求方法を個々に編み出さねばならない。かつて拙著の中で、真似や「いいとこ取り」では成功しないと度々記したが、ここでも同様のことが言える。
また、最近の消費性向の中で顕著なのが、「料金と料理を天秤にかけた時の満足度が、施設以上に大きなファクターになる」と言う点だ。そこで、再三指摘をしてきた料飲率の見直しがキーポイントになる。これは、料飲率の中の材料費とコストのバランスを見直すことだとも言える。某チェーンの例を挙げるまでもなく、7000円でもGOPは確保でき、しかも利用客は料金と料理を天秤にかけた時に「大きな満足」を感じている。感じているが故にリピートや口コミによる利用拡大につながっている。伝統的な旅館にとっては苦々しい現象かもしれないが、口惜しくても有効な部分は取り入れなければならないだろう。その最たるものがバイキング形式の食事だ。
バイキングに対する消費者の受け止め方も変わってきた。料金と料理による満足度を重視しはじめたからにほかならない。したがって、マーケットプライスに照らして「売り易い単価」でセグメントするならば、バイキングは切り札になり得る。今後の構図は、「バイキングvs部屋食・宴会食」の形になるのが必定と言えよう。構図として従来と大差のないように受け止められがちだが、GOPに照らした料飲率の設定で根本的な違いが生じると認識を新たにしてほしい。
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