「求める理想は実現する」 その125
マーケットに打って出る施策

Press release
  2009.01.14/観光経済新聞

 本シリーズでは、経営の健全化に向けてGOP15%の死守を訴え続けている。そのためにGOPをデポジットした予算編成などを提案してきた。とりわけ料飲率の見直しは急務といえる。肝心なのは、セグメントの明確化=基本方針とともに、サービス提供の仕組みもセグメントに合わせて再構築する必要がある。例えば、バイキング形式の食事、案内や呈茶などの簡素化をはじめ、やるべきことは多々ある。

ただ、セグメントを徹底しようとしたときに、セグメント周縁部の対応が難しいのも事実だ。高額客や低額客だが人数がまとまっているなどのケースでは、それらも受けたいのが人情でもある。しかし、それを受けてしまうと、基本方針も仕組みも崩れてしまう。こうした場合の判断基準は、やはり料飲率とGOPへの貢献度ということになる。これについては別の機会に細術するとして、今回は厳しさが増す現状に照らした課題を考えてみたい。

集客と利益の確保については、旅館はもとよりどの業界も最大関心事であることに変わりない。そうした中で、会員優待やポイント制度などが一般化している。日常生活に直結した商材や値の張る商材では、ポイントやキャッシュバックなどによる還元制度も確かに効果がある。また、ポイントの相互乗り入れで購買と還元の範囲が広がれば利用も増すだろう。しかし、それだけでは魅力が薄らぎはじめた気配もある。

こうした手法の原点は顧客の囲い込みであり、リピーター化だった。ところが、そうした制度には踊らなくなった消費行動も出始めた。「その場で値引き」と言った店舗の増加が要因の1つになっている。さらに、買い物客の居住地域に集客用の無料バスを運行するケースも出始めた。前者は対面販売で昔から行われていた手法だし、送迎バスに至っては旅館が原点と言ってもいいぐらいだ。このような例示をした理流は、一期一会を大切にしてきた旅館の伝統と、送迎は当然と考えてきた経緯を改めて考えてみたいからだ。また、筆者はかねて「旅館は自らマーケットのハンドリンを」と訴え続けてきた。マーケットに対して「構える」のではなく「出向くこと」が、今こそ必要だからでもある。

前置きが長くなってしまったが、近隣に相応のマーケットを抱え、いわゆる「奥座敷」と呼ばれる温泉地の旅館では、自ら都市部へ向けた送迎バスを毎日のように走らせ、集客に努めているケースを、筆者は数多く見てきた。そこにはいくつかの要素がある。まずは、アクセスのためのインフラ整備という意味あいだ。宿泊や日帰りを問わず、温泉需要は決してすたれたわけではない。だが、レジャーに対する消費者の支出枠は確実に狭まっている。

左下の図を見てほしい。図中の左側が従来の旅行総費用であり、右側の2つは消費枠の狭まった現在の旅行総費用だ。その中で上段は、支出額が減った現在も従来と同じ発想ならば、旅館宿泊の部分は当然ながら小さくなるし、交通費なども小さくなれば呼び込める範囲も制約されることを意味している。これに対して下段は、送迎によってアクセス環境を整備できれば、旅館宿泊部分の影響は大幅に軽減できる。

また、遠隔地の消費者を会員にしたポイント制度を行っても、DMや管理事務などの経費が増大するだけで即効性に乏しい。しかし、送迎可能な近隣マーケットがメインであれば、例えば四半期ごとのイベント展開などでリピーター化も難しくはない。消費者にとって交通費の負担軽減が、大きな魅力になるのは確実だ。

旅館の差別化が言われて久しい。だが、付け焼刃の文化論ではなく、足元を見直して「できる部分」からマーケットに打って出ることが、現在の厳しい状況を打開する第一歩だといえる。

(つづく)