旅館の健全経営には、少なくとも15%のGOPを確保することが欠かせない。そのために本シリーズでは、新しい概念の下での「料飲率」と「室料」を提言している。そこで、これまで述べてきた言葉の定義を再確認した上で、経営全体を俯瞰した別の観点から改めて捉えてみたい。
このうち料飲率は、原材料仕入をはじめ厨房人件費、食器準備、ルーム人件費とこれらの業務に付帯する消耗品費ほかの販売管理費と位置づけられる。一方、室料は一般販売管理費とGOP(※借入がある場合、返済原資をプラス)となる。
また、室料と料飲率は、別項(点線内)が算定式となる。
さて、年間スパンでこれらの諸項目を数値化したケーススタディを試みることにする。計算を単純化するために、与件は次のとおりとする。
客室総数=150室
年間売上=20億円
年間宿泊総数=10万人
必要なGOP=15%
年間販売管理費(料飲除く)=10億円
年間客室稼働率=70%
実勢定員=3人
原材料仕入=4億円
厨房関連人件費=2億円
配膳関連人件費=5000万円
ルーム関連人件費=3億円
まず、室料について下の算定式に準じて各項目を計算してみよう。料飲部門を除く一般販売管理費と15%のGOP(年間売上20億円に対して3億円)の合計額=Aは、13億円となる。これを総客室数で割った1室当たりの年間売上数値=Bは866.67万円となる。次に、1室当たりの数値を年間の販売日数で割ると、1日当たりの室料=Cが算出できる。このとき、年間稼働率を70%とすれば、実際の販売延べ日数は、365日の70%で255日ほどになり、
前出のBを255日で割るとCは3万3987円となる。つまり、1室につき3万3987円が室料として必要な額になり、これを客単価に反映させなければならない。実際には、この室料を実勢定員(ここでは3人)で割ると、1人当たり1万1329円となり、これが算定式のDとなる。
一方、料飲率は原材料仕入4億円はじめ厨房関連人件費2億円、食器準備・配膳関連人件費5000万円、ルーム関連人件費3億円を合計した9億5000万円を、総宿泊者数の10万人で割ると、1人当たり料飲高=Eは9500円(料飲率45%)となる。
さて、与件の年間売上20億円を、年間宿泊者総数で割った1人あたり客単価は、単純計算をすると2万円になる。客単価から料飲高の9500円を引くと1万500になる。この数字が実勢の室料=Fとなるわけで、前段で求めたDの室料に比べて829円のマイナスとなる。これが室料の不足分といえ、10万人に換算すれば、実に8290万円の不足となるわけだ。言い換えると、このケースでのGOPは、2.5%しか出ていないことになる。
つまり、このケーススタディのモデルとなった旅館でGOP15%を弾き出すには、単純にDとEを合計した2万829円にアップするか、あるいは料飲率を引き下げるか、さらに運営オペレーションを変更して販売管理費や各人件費のコストダウンが必要となる。その際に、宿泊と料飲の両オペレーションで、どの部分にムリ・ムラ・ムダが含まれているかを精査しなくてはならない。筆者が永年提唱し続けてきた旅館の構造改革や、経営実態を浮き彫りする旅館版ユニフォームシステムの必要性が、そこにある。
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