「儲けるための旅館経営」 その99
コストの2大分類から再認識

Press release
  2011.10.8観光経済新聞
旅館の健全前経営に欠かせないGOP15%以上の確保は、現下の厳しい状況の中でも必達しなければならない。旅館経営の大命題と言っていい。そうした観点からGOPの上がる運営変更を提唱し続けているが、実行に移すためには、売上とコストの関係を改めてGOP優先で捉え直す必要がある。

コストの概念については、再三述べてきたように「室料」「料理運営コスト」の2大分類が欠かせない。このうち室料とは、@宿泊関連人件費A販管費B建物減価償却費CGOPを包含している。一方の料理運営コストは、@原材料費A人件費(調理、料理輸送、接客、下膳、洗浄など)B備品や消耗品類の補充など、料理提供にかかわるコストの総和だ。

そうした2大分類を改めて提唱している理由は、旅館運営の特殊性にある。いわば、旅館の各作業にはボーダレスの感がある。例えば、最初の出迎えから最後の見送りに至る連続した時系列の中で、どのシーンでも人間がかかわっている。それが接客であり、個々の旅館を特徴づける大きな要素にもなっている。問題は、シーンの境目が見え難い半面、運営形態の多くはタテ割りの組織に委ねられてきた。

この一事を問い返すだけで、実はさまざまな課題があぶり出される。1つは、シーンごとの接客の特殊性がある。端的に言えば、接客係のサービス業務には相応の錬熟が必要であり、対応できる要員を数量的に確保しておかなければ、十分なCSを提供できないとされてきた。

また、客の連続した時系列には、捉え方に課題がある。この連続は個々の客にあてはまるが、客全体が同一の時系列で動いているわけでない。列車の運行に譬えるならば、単線の各駅停車のようなものだ。どの客も同じ時間に同じ方向に進んで、同じ駅で下車するのではない、と言うこと。旅館の館内では、始発時間の異なる複数の路線が同時に運行されているようなものであり、複数の運行には、各列車の乗務員と停車駅の駅員をそれぞれ必要としている。旅館の業務にあてはめれば、乗務員は接客係、駅員はフロントをはじめロビー・売店、浴場などであり、広義には事務やバックヤード、それに厨房なども該当する。

つまり、シーンと時系列のどちらから捉えても、これらの要員確保は必要とされてきた。繁閑差やアイドルタイムがあることを承知のうえで、必要な人員数を保持してきたことが、コストを肥大化させた。もちろん、バブル経済の崩壊から今日に至る過程のなかで、相応のリストラや組織の改編なども行われてきたこと自体は否定しないが、シーンと連続した時系列への対応は進んでいない。理由は、各業務の相関性であり、どこかを変えれば別の部分に歪が生じる。そこで「打てる手は打ち尽くした」というセリフを度々耳にすることになる。

だが、そこで言われた「打つべき手」とは、いったい何に準拠したものだったのかの疑問が残る。かつての旅館は、不動産業と料飲業のダブルチャージで儲けてきた。その時点で不動産業と料飲業に区分したプロフィット管理が行われないまま、今日に至っているのが大方の現状だ。これではGOPの起点が見えてこない。住所不定でどこかから湧いて出てくるものではない。

こうした実態を踏まえたとき、コスト概念として前段に掲げた室料と料理運営コストの2大分類が不可欠となる。GOPは、旅館業のコアコンピタンスである「室料」での所在を明確にすることだ。もはや旅館業は、ダブルチャージと言えない。不動産部門が旅館にとってのプロフィットセンターであり、料飲部門は予算を消化するコストセンターだと割り切る必要がある。

GOPはどこからか「湧き出す」のではなく、自ら「湧き出させる」と経営者が強い意志をもつことこそ、いま最も必要なことだ。そして、「湧き出させる」ための知恵を絞る。その絞り先こそが、2大分類で室料の対極にある「料理運営コスト」にほかならない。まだまだ多くの可能性を秘めている。(つづく)