「儲けるための旅館経営」 その97
運営変更に向けた手順概略(上)

Press release
  2011.9.24観光経済新聞
前3回を踏まえてGOP向上の進め方について、取り組み方のアウトラインを紹介しよう。ポイントとしては、宿泊単価に対する「料理運営コスト」の適正化が第1に挙げられる。つまり、GOP向上の対極にあるのがコスト圧縮であり、圧縮対象として第1番に挙げられるのが料理運営コストと言うことだ。

料理運営コストとは、大別すると@原材料費A人件費=調理、料理輸送、接客、下膳、洗浄などB消耗品類などであり、これら3カテゴリーの比率は単価グレードや旅館の個性によって配分も若干異なるが、コスト圧縮の対象として最初に挙げることができるのは人件費部分だ。これはいずれのケースでも共通する。

そうした観点から改善される前の一般的な現状をみると、これまでとり上げてきた接客コストの対象は、接客係とレストラン接客にかかわる社員のみだった。運営形態からも当然といえる。また、繁忙日には他の部署からの要員駆りだしも少なからず行われているが、接客の専門性や館内での位置付けから捉えれば、ヘルプの域を超えるものではない。言い換えれば、ヘルプの意識では「接客要員化」が不可能と言うことだ。

これに対して運営変更では、他部署の社員をヘルプでない形での運用形態が求められる。いわば、他部署を含めた全社にわたる接客社員態勢の構築と言える。もちろん、他部署の社員が本来の職を離れる意味ではない。繁閑にあわせて柔軟に運用される仕組みを意味している。

具体的には、客数に連動した出勤人員体制の確立にある。そのためには、月間客数予想と週間客数確定に基づく「月間シフト者会議」や「週間シフト者会議」などの開催と言った社内の会議システムについても再構築する必要がある。それはマネジメントとワークの関係において、管理者から実務者への適正な指示のリリースでもある。

こうした客数に連動する出勤計画を事前に立てる事で、館内での「ワークシェアーリング」が確実に実行される。それは、客数の少ない日にあっても、適正な料理運営コストの維持を意味している。

こうした仕組みは一朝一夕に構築できるものではない。端的にプログラム化すれば、4段階のステップを踏んで実現する。実際には@接客部門のオールラウンド運営A事務部門のオールラウンド運営B夕食運営の見直しC料理全般の見直し――など順を追って進める必要がある。

まず、ステップ1の接客部門のオールラウンド運営では、フロントや売店、ラウンジの接客要員化を目指す。これらの部門の社員を80%接客要員化(電話対応ほか最低限の必要要員を除く)することで、接客係の減員(外注費の削減)につながる。ただし、他の部門とのマルチタスクであることから、個人の力量に応じた研修などが必要になる。実際の運用では、一定の時間をある一定規準でその部署の運営を全て行う「レベル1」と単発的にその部署に運営を全て行う「レベル2」となる。下表の宿泊人数の少ない日がレベル1、宴会食の突出した日に対応するのがレベル2だ。

ステップ2の事務部門のオールラウンド運営は、予約や経理など事務部門の接客要員化で、ステップ1と同様にこれら部署の80%程度の要員化を目指すもの。ここでも前項同様のメリットと課題がある。運用面では、部屋食やレストラン食の突出に対応した「レベル3」となる。年間100日ほどの繁忙日対応だ。(この稿つづく)