「儲けるための旅館経営」 その95
「接客コスト」への認識が必要

Press release
  2011.9.10観光経済新聞
前回は、健全経営に必要なGOP15%と不動産業の基本である「室料」の関係を記した。また、設備投資を行った当初段階に比べて単価が下落していることから、GOPのネット額面を確保するには17%以上を確保する必要性にも触れた。ただし、厳しい経営環境下にあっても、運営変更に取り組めば、まだまだ旅館再興の余地は多分に残されている点を指摘した。今回は、GOP向上に欠かせない基本的な認識について整理しておこう。

GOP向上では、室料を確実に押さえておくことが不可欠であり、それには運営コストを圧縮する以外にない。この運営コストに対する捉え方が、従来の経営では曖昧な部分が多かった。いわゆるタテ割りの組織によって、コストもそれに準じている形であり、一見するとセクションごとに整然としたかの印象を与えてきたが、これは錯覚に過ぎない。もっとも大きな理由は、時系列による客動線の変化との整合に欠けているからだ。これまでも指摘したように旅館の業務は、@事務にかかわる業務A裏方としての業務Bお客を接待する業務に大別できる。ゆえにタテ割りの組織が妥当とされてきた。

しかし、ここに客動線を持ち込むと、同じ社内でありながら時間帯による業務の繁閑にもかかわらず、忙しく立ち働く社員と時間潰しの社員が混在する状況があるのに気付くはずだ。これは、厳しい経営環境下で人件費効率を求めるときの大きな問題点でもあり、改善することで効率化を図れる部分でもある。その切り札がオールラウンド化による運営変更といえる。そして、前提として現状を適正に把握する必要があろ。

現状解析として、料理運営コスト(@原材料費A人件費=調理、料理輸送、接客、下膳、洗浄などB消耗品類)の中で大きなウェートを占める接客コスト(人件費)を捉えてみよう。

一般的みられる接客コストは、客1人当たり10002000円の範囲に収まっている。ただし、この数字はコストを年間ベースで捉えたときに弾き出された平均値であって、繁閑に照らした実体とはイメージが整合し難い。そこで、繁閑の両局に絞って模式化してみよう(下図参照)。(注=単価1万円の接客で、接客係1人が客10人対応、あるいは接客係1人の1日当たり人件費2万円は、現状にそぐわない面もあるが、計算上分かり易い数字と理解してほしい)

繁忙日は、接客係1人が客10人に対応していることから、接客係の人件費2万円を客数で割れば2000円の接客コストになる。また、人件費の2万円を客10人分の売上で割れば、接客コストの比率は20%になる。

これに対して閑散日は、客数が半分の5人であることから、接客コストが4000円、売上比率が40%にそれぞれ跳ね上がっている。販売単価と接客コストは、完全にバランスを欠いた状態だ。本来こうした状況は、 人の動きとモノの動きを見てもわかるはずで、繁忙日のそれは整合しているが、閑散日は人の動きに大差がなくても、モノの動きは確実に減少している。極論すれば、上図の閑散日のグレーゾーンは、人件費を捨てているに等しい。しかも、こうした閑散日が年間で150日前後もある現状を改めて問わねばならない。そこに運営変更の必要性が潜んでいる。(つづく)