「儲けるための旅館経営」 その94
「室料確保」に向け認識を新たに

Press release
  2011.9.3観光経済新聞
前2回にわたって「オールラウンド化の前提条件」について記した。オールラウンド化とは、言葉を換えれば社員をマルチタスクによって動かすことだ。それによって運営コスト、とりわけ人件費の効率を高めることが、現状の厳しい経営環境を乗り越える効果的な手段といえる。

旅館が健全経営を進めるには、当座をしのぐだけでは話にならない。将来への生き残りを見据えた健全な事業計画を描けなければ、何も始まらない。そこで「GOP15%」のフレーズが再三登場することになる。GOP15%以上を確保できていなければ、再投資ができない。不動産業として最も基本である施設や設備の陳腐化が避けられない。結果として顧客の満足度が低下し、客離れの悪循環ループに落ち込んでしまう。

あるいは、小手先の価格施策で乗り越えようとすれば、クオリティ維持に伴う経費比率の高まりを認めるか、クオリティを犠牲にするかの選択に迫られ、どちらを選んでも健全経営にイエローカードが出る。

また、装置産業の宿命である初期投資の回収も避けて通れない。投資のための借入金は返済しなければならない。もちろん、売上が減少しても返済が減額されることはない。言わずもがなの話だが、厳しい現実がどこまでもついて回る。

さて、健全経営への再興を図ろうとするときに、経営者ならば誰でも周知のことだが、改めてGOP低下のメカニズムを考えておきたい。主原因は、低価格帯の構成比が高くなってきたことだ。言い換えれば、初期投資の段階で想定していた自館のグレードに照らしたときに、「ほしくない客単価の層」が増えてきた。数パーセントはやむなしと考えてきたそれらの層が、気がつけば2030%かそれ以上を占めるようになっていた。

低価格帯が数パーセントならば、売上全体から捉えた構成比は、わずかな部分を占めるだけだ。また、そうした売上構成の下で、GOP15%を確保できる経費バランスで経営が成り立ってきた(下図上段=◆当初のGOP)

これに対して低価格帯の構成比率が高まってくると、売上全体への影響も無視できないものとなる。初期投資への返済や経費の総計が変わらないとすれば、GOPは10%以上も目減りする(下図下段=◆低価格帯比率の高まったGOP)。客室数100室前後の規模ならば、数千万円単位でGOPが目減りしている。

こうした状況は、別の捉え方をすると「室料」が確保できていな状況といえる。不動産業でありながら、儲けを出さなければならない部分から儲けが出ていないことになる。この「室料」に対する認識の甘さ、あるいは位置付けの曖昧さが多くの旅館で否定できない。

このままでは前渡も暗澹とているが、「室料確保」の認識の下で運営変更に取り組めば、まだまだ再興の余地は多分に残されている。当初のGOP15%に等しいネット額(正味)ならば、GOP17%程度と弾き出せるが、この数字も決してムリではない。実際に多くの旅館で運営変更は奏功している。いま、それに取り組むときだ。(つづく)