「儲けるための旅館経営」 その92
オールラウンド化の前提(上)

Press release
  2011.8.20観光経済新聞
これまで、オールラウンド化の必要性をさまざまな角度から提言してきた。改めて、業務実態の検証を通して、なぜオールラウンド化が「可能なのか」の観点から捉えてみよう。

第1として、業務は3つの「動き」によって遂行されている点に注目してほしい。それは、@人の動きAモノの動きB意識の動きだ。とりわけ「モノの動き」と「人の動き」の動きは、現実の場面で直結している。「意識の動き」は、さまざまな視点がある。現実の作業者が業務に対する意識のもち方では、業務に対する取り組み姿勢や、その背景にある処遇などに起因するモチベーション、さらに個人の資質に起因するものもある。また、監督者においてはマネジメントの観点から捉えた意識、それを具体的な指示(リリース)の形で体現化させていく意識、そして作業者と同様にモチベーションや資質もかかわってくる。さらに、経営者においては前2者の在り方を捉えながら、経営手法をコントロールしていく意識など、立場による違いがある。

第2は、旅館の業務を遂行する上で、業務の内容から3つのヤードに大別した整理が必要なこと。具体的には、@事務にかかわる業務A裏方としての業務Bお客を接待する業務の3つだ。さらに、第3として実際の場面に落とし込んだときに、第1と2の業務内容を大分類、中分類、小分類にカテゴリー区分すること。なぜならば、業務には2つの大きな性格がある。1つはワーカーとしての単純作業であり、もう1つは監督者としての思考作業だ。前者については、事務系なら伝票処理や入力、食事なら食器準備や配膳などであり、それらはモノの動きにほかならない。

前提条件であるこれらを整理することから、オールラウンド化の可能性も手法も見えてくる。逆に、それなくして3つのヤードに属した業務を「臨機応変にさせる」と言った形は、本末転倒であるといえる。結果は、現場をいたずらに混乱させ、業務の遅滞、さらにクレームなどCSの低下を引き起こす。

若干の遠回りになるが、現実面から捉えた問題点を、症例として幾つか挙げてみよう。まず、事務所に送られてきたメールの処理を仮定してみる。情報内容が実際の必要個所に届くまでには、何段階かの人手を経ている。当然ながら時間もかかっている。ところが、館内の情報システムを構築し、人手を介さずにデータコンバートをすれば、人手も時間もかからない。この流れを仔細に捉えてみよう。事務所に届いた段階で、極めてアナログ的な処理ならば、プリントアウトして必要個所に送致する。同時に記録を残すために何らかの入力作業が発生するケースもあるだろう。また、書面の送致には運ぶ人手がかかるし、効率を考えれば「その都度」でなく、一定量になるまで受信個所に留置されることもある。しかし、必要とされるのは迅速な情報の伝達にほかならない。ここで留意すべき点は、媒体であるプリントアウトされた紙の「動き」に刷り替わっていることだ。つまり、モノの動きとして、それが滞ることになる。結果として、情報の本来の役割までもが果たせなくなっている。

また、システム化されていないデジタル対応にも、同様の人手とタイムラグが生じている。転送するにしても、人の手間を多少なりとも加えなければならないからだ。さらに実際問題として、朝早くに着信したメールが、必要とされる人間に読まれるのが、半日や1日後であるケースも少なからずある。これは、システム化と言うよりも、情報に対する意識の問題でもある。

以上は極端な例だが、肝心なことは「モノの動き」をどのように捉え、それをどのように変えるかの発想が基本となる。これは、館内の全ての作業に共通する。厨房作業から配膳までの一連の流れ、予約をはじめとする販売管理、経理全般の管理などのシステム化、それに全体をコントロールシステム化の発想につながってくる。オールラウンド化の根底として、こうした3つの動きに対する認識が不可欠だ。(つづく)