「儲けるための旅館経営」 その91
まず、オールラウンド認識を

Press release
  2011.8.13観光経済新聞
前回は、社員総数が80人の旅館をモデルケースに、現状の社員の配置と接客の関係を大まかに捉えてみた(下図参照=再掲)。そして、この要員態勢で「泊って満足」の評価を得るには「32人の接客態勢では不十分」である点を指摘した。社員数を増やせない厳しい経営環境下では、改善策として社員を多機能化するオールラウンド化の実施が不可決だが、各業務現場から挙げられる「ムリだとする理由」の一端も紹介した。もちろん、運営オペレーションを再構築せずに、こうした社員の多機能化だけを求めようとすれば、現場がいたずらに混乱するのは、火を見るより明らかなのも事実として否定しない。

だが、旅館はGOP15%の確保に向けて「売ること」が至上命題であり、そのための絶対条件である「満足」を提供しなければならないのも、まさに表裏の関係にある。そこで、前回の要員配置の事例を角度を変えて検証してみよう。

具体的なオペレーションや人員計画は次回以降に各論として紹介するが、まずオールラウンド化と「泊って満足」の構図を明確に位置付けることから始めたい。社員80人態勢の現状とオールラウンド化の違いを改めて捉えてみると、満足を提供するための適正な接客要員数が、根本的に大きな違いとなって表れている(右図参照)。接客32人態勢では(図中の上段)、社員総数を示す外円と32人態勢(黒部分)の間に大きな空白がある。また、適正接客要員数(黒点線)と32人態勢の間にも空白がある。適正接客要員数については、平均消費単価によっても異なるが、ここでは直接的な接客とバック部門のバランスが適正と言えない、といったイメージをまず捉えてほしい。それによる現象面で影響としては、接客での満足度の不足が第1に挙げられる。視点を換えればクレームの発生が懸念される部分であり、前回までに指摘した「送って安心」の旅行業者への満足も損なわれる。さらに、元々不足している接客構造では、中途退社などの事態が発生すれば、満足度が一気に下がることも当然ながら考えられる。

これに対してオールラウンド化が相当レベルに進み、業務の性格上から難しい部門が未完だとしても、適正接客要員は余力をもって確保できる(図中の下段)。業務遂行に余力のある要員態勢が構築されていれば、接客上で発生する前記のクレームなども、未然に防ぐことが可能となる。また、中途退社による満足度の低下が回避できるだけでなく、「力量不足の社員」についても計画的な採用によって入れ替えが業務に遅滞なく行える。

つまり、社員80人態勢を前提として発想しても、同じ社員数であってこれだけの違いが表れる。さらに、適切なオペレーションが構築できれば、総数の減員は当然ながら可能であり、人件費の削減効果がある一方でESを高め、それと同時にCSアップも実現できる。(つづく)