「儲けるための旅館経営」 その90
仕組み変え接客態勢の充実を

Press release
  2011.8.6観光経済新聞
前回、施設のような大型投資でなく、当面の課題として料理やサービスについて運営の仕組みを変えることで「送って安心、泊って満足」を実現させる必要性に言及した。今回から具体的な方法論に移りたい。

まず、運営コストの面を考えてみよう。料理とサービスのコストを天秤に掛けるのは乱暴だが、どちらにも共通してかかわるのが人件費だ。本シリーズでは、それを「料理運営コスト」の観点から扱ってきた。例えば「コストバランス50%」は、売上に対する人件費、原材料、消耗品と備品補充の合計が50%を目安にした考え方で、GOP15%を確保する上で欠かせない。もちろん、平均客単価が2万円超や1万円以下では、50%より割り引いて考える必要があり、それらについては度々紹介してきたので、ここでは割愛する。

肝心なことは、業務内容によってタテ割りに管理してきた人件費を、料理運営という接客業務の動線を包括的に捉えて、そこでのコストを明確にすること。さらに、接客業務そのものを「誰が、どれだけ担うか」の業務分野を改めて詳細に解析、組み直すことで、コストバランス50%の範囲内での運用を目指すものだ。

概念的な解説を避けて現実を捉えてみよう。例えば、実際に社員総数が80人の旅館をモデルケースに話を進めよう(下図参照)。この旅館での要員配置は、いわゆる「接客」に直接関与する社員が、総数80人のうち32人にとどまる。ここにメスを入れる最大の理由は、前回の稿で記した「泊って満足」の度合いを高めることにほかならない。現実的に言えば、旅館の印象に大きな影響を与えるファーストインプレッションは、出迎えの段階で決まる。さらに、実質的な印象は、食事提供での接客態勢による部分が大きい。宴会食で「お客さま10人に対して接客係を1人」といった送客側からの要請は、まさに接客態勢がサービス評価で大きな要素になっていることを示す表れと言える。

これらは、接客要員の確保と運用の仕方にかかわる課題であり、一言で表せば、総勢80人で運営する規模の旅館にあっては「32人の接客態勢では不十分」と言うことだ。「売ること」の絶対条件を満たす「満足」を提供しきれていないことになる。

こうした状況から脱却する方策の1つとして、社員のオールラウンド化を提唱し続けている。俗な言い方をすれば、忙しい時には1人何役もこなす態勢だ。ただし、これらは理屈では分かっても、実際の運用では仕組みとしての緻密な組み立てが必要であり、安易に取り組めば現場に混乱を引き起こしてマイナスに働く場合が多い。その背景はさまざまだが、図中の48人について、業務内容の多機能化が現状ではムリだとされる要因を拾ってみよう。

まず、フロントではレイトチェックイン対応で、出迎え要員は出せない。事務所では、デスクワークが18時までに終わらない。調理では、夜も仕込作業があってレストランのリセットにさける要員がいない。施設や夜警では、接客に対応できる要員が元々いない。概ねこうした理由が挙げられる(多分に現場のご都合主義に発したもの)。

では、接客にかかわる要員を増やすのか。コストバランス50%を持ち出すまでもなく、現下の厳しい経営環境下でムリなことは、経営者の誰もが知っている。運営の仕組みを変えて32人を60人、70人に変化させることで「泊って満足」を創出する必要が、そこにある。(つづく)