「儲けるための旅館経営」 その89
料理、サービス運営変更がカギ

Press release
  2011.7.23観光経済新聞

前回2回にわたって「送って安心、泊って満足」について述べた。具体的な方法論の前に、背景についてもう少し整理をしておきたい。まず、旅館経営の基本的な在り方は、適正な利益を得ることにほかならない。現時点では、それを健全経営に欠かせない「GOP15%」の確保と言える。また、利益確保では「売ること」が絶対条件になるが、その部分が一般的な商品やサービス提供とは異なっている。

消費者が旅行に出かけて宿泊しようと決めた時点が、一般的な商品を「買おう」と決めた時と近似だとすれば、そこから起算して実際に「買う行為(泊る)」によって実質的な満足を実感するまでには、多くの場合にタイムラグがある。また、その間に、消費者の「買おう」とした思いが実現するために、仲介する旅行業者の手を経るというもう1つのプロセスもある。これらが、一般的なビジネスの在り方と大きく異なる部分と捉えることができる。

余談だが、一般的な商品やサービスを購入する消費者の心理プロセスは、第1段階として宣伝広告やセールストークによって注目させられ、第2段階はそれへの興味を抱く。そして、第3段階として欲しいと思う欲求が起きると、第4段階は自分にとって欲求が満たされるものか否かを確認し、それが確認ができれば第5段階の購入を実行に移す。こうした5段階(注目・興味・欲求・確認・購入行動)の意識プロセスは、その頭文字をとって「AIDCAの法則」とマーケティングや広告分野で呼ばれている。このうち4番目の確認作業は、耐久消費財や高価なものであれば長引く心情が頷ける。逆に、日常的な商品やサービスでは、経験則などを踏まえて簡略化されることが多い。

さて、改めて「送って安心、泊って満足」の構図を捉えてみると、前述のように消費者の思いを実現させる旅行業者の販売努力、タイムラグで膨らんだ消費者の期待感を共に満たすことが、冒頭の絶対条件である「売ること」に帰結する。さらに、旅行業者の関与は一切ないと言う特殊なケースの旅館を除けば、旅行業者と消費者、そして旅館の3者が共に満足をできるウィン・ウィン・ウィンの関係が成り立つ構図こそが「送って安心、泊って満足」の根幹だと言える。

視点を換えてみよう。前述のタイムラグは、消費者の思いの中にある期待感を一層膨らませる要素が多分にある。耐久消費財や高価な商品の購入で心理的に働く確認作業では、多かれ少なかれ比較や批判などの意識がみられる。これに対して旅行や旅館宿泊では、価格や内容を比較した上で購入を決定した後は、タイムラグによって生じた確認の時間的余裕が、概ねより満足をしたいとの思い(満足の確認)を増幅させるベクトルが働く。いわば、期待感が膨らむことはあっても縮むことはあり得ない。期待感が縮めば旅行そのものの意味がなくなり、極論すれば出かける必要も失せてしまう。

そこで、旅館としては健全経営に欠かせないGOP15%を確保しつつ「送って安心、泊って満足」構図を目指さなければならない。とりわけ「泊って満足」は、利用客の満足と言った捉え方だけでなく、旅行業者の販売努力に対し、対価である送客手数料とは別の大きな意味をもち、ひいては次の送客へつながる。旅館にとっては、売るための絶対条件に寄与するものと位置付けられる。

また「泊って満足」は、旅館宿泊への膨らんだ期待感に応えるものであり、これまでも言われ続けてきた「施設・料理・サービス」の3要素の充実にほかならない。この中で施設については、バブル期のように顧客のニーズへ敏感に対応できる状況にない。むしろ、自社の特色を明確に打ち出す姿勢が必要だ。ニーズ優先のマーケットインの発想ではなく、特色をプロダクトアウトの姿勢で打ち出していくことが現下の情勢では理に叶っている。これに対して料理やサービスは、施設のような大型投資でなく、運営の仕組みを変えることで対応できる。それが本シリーズで訴え続けているテーマだ。(つづく)