前回、GOP15%の確保は、旅館施設の維持と適切な再投資、旅館業務に携わる人間が働き甲斐を感じられる処遇などを可能とする大前提だと指摘した。いわば利益をどれがけ確保するによって、施設維持や社員処遇は左右される。また、利益はそれ自体で存在しない。商品やサービスの対価を構成する1つの要素であり、対価が得られなければ利益は存在しないわけで、買ってもらわなければ話は始まらない。
極めて当然の理として誰もが認めるところだが、対価のどれだけが利益として適正なのかは難しい。判断基準となるのは、消費者の満足度にある。利益を多く確保すれば満足は低くなり、逆に利益を少なくすれば経営が維持できなくなる。そこで、経営を合理化してコストを削減し、買う側の満足度を維持しつつ自社の利益も適正に確保する手立てが必要となる。それが経営の抜本的改革にほかならない。旅館でのGOP15%確保は、自社のためであると同時に「送って安心、泊って満足」のロジックがなりたつ。同時にそれは、経営改革を実行した旅館としていない旅館の差別化にもつながる。
この点について別の視点から捉えてみたい。現在の経済状況下での生き残りを考えるときに、30年前からのバブル経済とその後の「失われた20年」を総括した上で、当面の是正策と10年20年先のビジョンを描く必要がある。当面の施策は現実的であり、何をどう是正すればいいかを見出すのは決して難しくない。これまでのデータを検証することで、大筋は見えてくる。だが、実行に移す方法論の段になると、さまざまな制約が表面化してくる。また、当面の施策において制約が生じると、その克服が是正策の本旨であるかのような刷り替わりが生じ、是正の方向性が見失われていく。この方向性の喪失が、後に致命的なダメージにつながることも少なくない。
例えば、売上の前年割れをどう捉えるか。消費単価の低下傾向、客数そのもの減少、それらの複合作用などが大きな要素となっている。第1の消費単価の低下は、消費者の価格志向が大きく作用しており、旅館個々の努力ではいかんともし難い。そこで、価格志向を受け入れる形で価格帯の引き下げを行う。第2の客数の減少は、営業活動と密接な関係にあることから、従前のセールス活動の強化に加えて、売り易くするための施策を講じる。端的にいえば、サービスの付加によってパイの奪い合い競争で一歩でも先んじようとするのに類似している。結果として第3の複合作用を引き起こしている。
では、どうしたらいいのか。極めてシンプルな問いだが、そこに前述した是正策の刷り替わりがある。バブル期の単価3万円と現在の1万円とでは、何が違うのか。額面の違いだけを捉えると、上記の前年割れの是正論で行き詰ってしまう。結論から言えば、GOPの観点から状況を徹底的に見直すことだ。バブル時のGOPと現在のGOPを解析してみることも1つの方法といえる。
例えば、売上が右肩あがりの状況が続いていると、ある時点で体力を越えた投資をしても、その先にはそれ以上の売上増が期待できた。かつての一時期に「度胸があって声が大きければ経営者は務まる」と言われたが、それが問題の核心を象徴していた。GOPへの認識が単なる目安ほどにとどまっていた。過大な投資であっても、それが集客力と単価をアップさせるものであれば、売上が2〜3割増加した時点でみれば過大といえない。10の能力で12の投資は過大だが、13になった時点で12の投資は「先見の明」と評価された。10の時点で12を投資できる度胸と、融資先を説得する声の大きさが、経営者の才覚と捉えられた背景の大きな部分だ。
これに対して筆者は、新たな傾向に注目している。いわゆる二代目経営者の中で、利益に対して明確なロジックをもつ人が目につくようになってきたことだ。利益が出なければなにもできない。そのことを、経営の根幹に据えたビジョンが生まれる気配がみえる。最近の傾向の中で快哉を送りたい事柄だ。(つづく)
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