「儲けるための旅館経営」 その83
社員で回せる運営の仕組みを

Press release
  2011.6.11観光経済新聞

前回、接客要員比率にメスを入れる料理運営コストの見直は、健全経営に不可欠なGOP15%を確保し、さらにCSやESを満たす切り札にほかならないと述べた。これは、旅館のさまざまな作業分野でのオールラウンド化を前提としている。きわめて大胆に発想すれば、今日の逼迫した経営環境での生き残り策は、現行の社員定数を半数以下に削減すること。それには、社員のどれだけが接客にかかわっているか(接客要員比率)を見極め、かかわる仕組みを確立しているかが問題となる。

また、料理運営コストの見直とは、料理原価の引き下げでないことは再三述べてきた。料理のクオリティを下げれば、当然ながらCSも下がってしまう。着目すべき点は、料理提供にかかわるトータルコストが、どれほどになっているかだ。その中で大きなウェイトを占めているのが、接客にかかわる人件費であり、それらは料理の提供の方法(部屋出し、食事処、バイキングほか)によっても大きく変わってくる。

さて、人件費の削減を目指す施策を展開する一方で、例えば事務部門の増員を提案すると、ほとんどの場合に怪訝な反応が返ってくる。結論からいえばそこでの増員は、だらだらと残業時間に食いこんでいた事務の仕事を、午後5時には確実に終わらせるとともに、その後はレイトチェックインに対応する。それによってフロント要員は接客に回ることができる。結果として接客を必要とする時間帯の要員は、社員だけで十分にまかなえる。このことは、繁閑のシーズンや曜日の波動と連動させることで、法定労働時間への対応にもなる。俗に半年間の稼ぎで残る半年をやりくりすると言われるように、本当に忙しい繁忙日が年間100日たらずの実情に照らせば、容易にイメージできることだ。しかし、その現実が往々にして忘れられている。

接客要員比率に着目した実際の旅館のケースを例示してみよう。ここでの必要な接客要員の数は、年間ベースでみると@40人が1〜2日A30人超が80日B20人以下が280日といった状況だ。そこで、接客要員数を15人に抑えている。20人必要なときは、他部門の接客オールラウンドで対応し、30人超が必要なときは全従業員が、それぞれ接客オールラウンド、あるいは館内運営オールラウンドとして総動員態勢を敷く。さらに、接客要員が3540人必要な日については、年間で契約しているコンパニオン会社から接客要員を調達する。コンパニオンの派遣料金は、数時間で1万円程度と決し安いものではないが、この旅館のケースでは、コンパニオンは1日に5〜10人で、年間にすると延べ200人分程度。つまり、通常の人件費に換算すれば、接客係1人分の年間人件費にも満たない。

こうした接客要員比率と料理運営コストの見直は、価格の引き下げに対応する上で欠かすことができない。例えば、従来の平均単価を100として、それを80に引き下げた場合、GOPを含む室料50は引下げ後も確保しなければならない。そこで料理運営コストを見直し、不足分の室料を補てん(A’室料20)しなければ、施設運営ができなくなる。料理運営コストは大幅圧縮となるが、それでもクオリティ維持は可能となる。

それが接客要員比率を見直すことであり、社員定数を半分に削減しても、実際の接遇面でCSを損なうことはない。同時に計画休暇でESも高まる。(つづく)