「儲けるための旅館経営」 その82
食中毒防止は経営の根幹にも

Press release
  2011.5.28観光経済新聞

前回は、自社の標準単価(自社のほしい価格帯)が満たされないのに対して、対症療法的な単価の引き下げとGOPの関係性を概括した。結論として、価格の引き下げを当座しのぎではなく、恒常的なものと捉える場合、運営スキームを抜本的に見直すことによって、自社の標準価格を引き下げても、CSやESを損なわないオペレーションがあることを知ってほしいとまとめた。この点について、別の観点から整理しておきたい。

結論から言えば、室料を確保できれば経営は成り立つ。それには、標準単価をどのように弾き出したのかを、改めて考えてほしい。まず、投資への返済原資や施設の維持管理コストがあり、そこに健全経営に欠かせないGOP15%を加えた室料がある。さらに料理提供のための料理運営コストが合算されて自社の標準単価が決まったはずだ。

これらの点をシンプルに考えれば、室料は必要不可欠なものであり、これを確保できなければ旅館の経営が成り立たない。一方、料理運営コストは、料理提供の全てにかかわるもの(原材料、人件費、消耗品や備品補充など)であって、こちらは可変的な部分が残されている。

これに対して現実は、料理運営コストへの認識が薄く、半面で接客サービスコストの削減は「もはや限界まで実行している」として、標準単価の引き下げによるGOPの目減りを「仕方のないこと」と考える経営者も少なくない。だが、それによって旅館経営の根幹が揺るがされているとの認識がほしい。

そこで、標準単価(室料+料理運営コスト)を基に単価の引き下げとGOPの関係を整理してみた(右上図)。まず、標準単価でGOP15%を確保(図中左側の円)している施設が、単価を引き下げた場合に@〜B(図中右側の円)のケースが考えられる。引き下げ後の単価を示す円全体の大きさは、@〜Bとも同じ。

この中で@は、外側の円(従前の標準単価)と引き下げ後の単価(黒い円)の間に空白ある。これは、額面の目減りを示している。このケースでは、単価を下げても料理運営コストに手をつけていないために、室料が大幅に圧縮された。こうした場合に、料理原価に手をつける経営者も少なくない(第78回参照)が、それは悪循環の入口だと知る必要がある。

中段のAは、かねて提唱している「コストバランス50%」の形で、料理運営コストを見直したもの。単価を引き下げても、当面の売り上げに対しては15%のGOPを確保している。だが、@と同様に標準単価との間に空白が生じている。ここでのGOP15%は、引き下げた単価で不動産業が成り立つハードの場合であって、それを前提としていない1ランク上の施設では、当然の不足分が表れる。

下段のBは、料理運営コストを示す円がさらに小さくなる一方で、外周の円が消えている。これが単価の引き下げでもっとも肝心な部分だ。前回も指摘したように、単価を下げても返済原資や施設の維持管理コストは変わらない。つまり、前述した必要不可欠な部分は、単価を下げても、確実に確保している図式だ。

これが、接客要員比率にメスを入れる料理運営コストの見直しであり、健全経営のGOPを確保しながらCSやESを満たす切り札にほかならない。(つづく)