本稿は、GOPを重視した旅館経営をさまざまな角度から書き進めているが、筆者は元々の専門分野が疫学であることから、先ごろ富山、福井、神奈川の3県で発生した食中毒を看過できず、番外編として食中毒防止の観点を1回にまとめて上梓したい。もとより食中毒事故の恐ろしさは、旅館の経営者ならば誰でも認識しているはずだが、一方で経営環境が厳しくなってくると、ややもすれば手薄になる感も否めない。そうしたことへの再警鐘と理解いただきたい。
食中毒を未然に防ぐには「衛生管理思想」の徹底が第一であり、その意味では経営理念とリンクする。また、食中毒防止に向けた「3原則」(菌をつけない、菌を殺す、菌を増やさない)は、機会があるごとに啓蒙されてきた周知のことがらだ。しかし、言葉を知っているだけでは意味がない。実際の経営に落とし込んでみると、「日々の衛生理念」と「不測事態の防止策」の2つの側面から捉る必要がある。なぜならば、食中毒には大きく分けて「汚染要因」と「増殖要因」がかかわっているからだ。
このうち汚染要因は、日々の衛生理念を徹底することで対処できる部分が大半といってもいいだろう。それには、いわゆる「5S」(整理、整頓、清潔、清掃と、これらの習慣化)の推進が挙げられる。また、この5Sの項目を個々に捉えると決して高度なものでなく、極めてシンプルな事項に過ぎない。だが、業務を効率的に遂行する上では、どれも欠かすことができない。厨房業務に限らず全社各部門に共通する。
一方の増殖要因は、5Sが全社に浸透していても、作業環境のハードとソフトが整備されていなければ回避できない。そこで生じる不測事態の防止には、例えば設備として料理を保管する冷蔵庫や温蔵庫、あるいは料理輸送のコンテナや搬送機器の整備が欠かせない。常温で放置することによる菌の増殖を防ぐためだ。さらに、それらの設備機器を的確に機能させる運用の仕組みが求められる。放射能汚染と同様に、目に見えない菌の増殖は、精神論で防げるものではない。
そこで、調理自体を考えてみると、菌の多くは加熱によって死滅するし、生食であっても調理器具や板前の清潔維持によってリスクは大幅に軽減される。つまり、3原則の「殺す、つけない」の2つは、衛生理念で対処できるが、残る「増やさない」は、リスクマネジメントとして捉える必要がある。
これをGOP重視の観点からみると、作業が一定時間に集中することに問題がある。一見して活況を呈しているかに映る厨房の光景には、実は運営コストを肥大化させる要素が多分に含まれている。料理運営コストとしてそれらを解析すると、問題だらけと言っても過言でない。
そうした日々の無頓着に支出しているコストを抑え、さらに不測の事態による想定外の損失を回避するには、筆者が永年提唱している「厨房システム」のようなソフトとハードをトータルで捉える視点が欠かせない。(つづく)
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