「儲けるための旅館経営」 その80
値引とGOPの実態は不連続

Press release
  2011.5./14観光経済新聞
 前回、価格志向に対して単価の引き下げで対処するには「覚悟が必要」と述べた。そこで、単価の引き下げがGOPとどのように連動するのかを、改めて考えてみたい。

まず、単価の引き下げは、イールドマネジメントの一環としての意味合いは大きいが、その理念を無視して運用すれば、結果は健全経営を妨げることになる。いわば「明日では売れない今日」を埋め合わせるものであって、それと安売りは根本的に違う。安売りで利益を確保できるのは、それに見合った運用の仕組みが構築されていなければならない。

右上の図表は、前回も記した自社でほしい価格帯のパイが限られてきたのに対して、単価を引き下げた場合のイメージを模式図化したものだ。結論から言えば、単価を引き下げて売上額面の帳尻合わせをしても、GOPの視点で捉えれば効果は上がっていないということ。

前提条件として、次の要素を想定した。自社の標準単価(自社のほしい価格帯)を1万2000円とし、標準単価で稼働率70%(繁閑の差に対応した人件費効率の理想的な数値)のときに、GOPが15%となる設定。計算の便宜上、満館を100人として稼働率70%を、70人の売り上げと算出する(図表上段)。これに対して下段は、標準単価では50人しか埋まらず、単価を8000円に下げて30人を集客。結果として、標準単価70人(稼働率70%時)の売り上げと、額面では同額の84万円を確保している。

これをGOPから捉えてみると、標準単価で70人時のGOP額面は126000円となるが、下段の50人時では9万円にとどまる。これに値引した単価8000円からのGOP額面1万8000円(図表下段の格子状部分)を加えると、合計108000円で、人数は10人増えたもののGOP額面では1万8000円の目減りとなっている。

もちろん、標準単価と値引単価では、料理原価や接遇に変化をもたせている。その場合に重要なのが、室料と料理運営コストという2大区分の発想だ。これに関しては「コストバランス50%」として度々述べてきたが、これまでとは視点を換えて「室料として50%確保」と捉えてみよう。というのもGOP15%は、室料の中に含まれているからだ。

標準単価の場合、室料は1万2000円の50%である6000円。また、GOP15%は額面で1800円。したがって、室料からGOPを差し引いた4200円が、返済やその他の運営コストに充当される。いい換えれば、単価1万2000円の施設をノーマルに運営するには、この「4200円」が必要不可欠な金額といえる。

また、標準単価で1万2000円から1万8000円の範囲が「コストバランス50%」の基準であり、それ以上も以下も50%を下回る。値引単価の8000円では、40%弱(3200円)が料理運営コストとなる。したがって8000円の室料は4800円となる。ここから施設をノーマルに運営するための「4200円」を差し引くと、GOPの額面は600円にしかならない。標準単価のわずか3分の1、GOPのノーマル換算で5%に過ぎないものになってしまう。

さらに言えば、8000円から算出されるGOP(格子状部分)で上段のGOP15%と同額を稼ぎ出そうとすると、計算上は30人を上乗せすればいいわけだが、これでは全体で100人のワクを10人上回ってしまい、現実にはあり得ない。

つまり、価格の引き下げを当座しのぎではなく、恒常的なものと捉える場合、運営スキームを抜本的に見直すことによって、自社の標準価格を引き下げても、CSやESを損なわないオペレーションがあることを知ってほしい。(つづく)