すでに述べてきたように「室料」とは、GOPと宿泊にかかわる部門の運営費、一般販売管理費を加算したものといえる。ただし、よほどの例外を除けば、もう1つの項目として返済原資を加えなければならない。投資した施設に対して、償却をはじめ必要な要素を加味して返済額を算出する。
この室料と料飲率(料理原価=①材料費②厨房人件費③料理輸送費④接客人件費⑤食器洗浄などの総和)に基づいて年間の予算を組み立てることになる。予算編成の手順は、おおむね次のような流れになる。
まず、年間に確保すべきGOPを想定する。次に、これを客室タイプ別(タリフ別)に区分する。さらに、年間のシーズナリティを加味しながら、グレードに見合った定価で販売できる特定日と価格訴求で売り切る日を勘案した上で、客室タイプ別の年間売上とGOPを算出する。言い換えると、年間の予算を編成する際に各商品(タリフ別)に、それぞれ確保すべき室料と料飲率によって商品構成を考えることになる。
この時の留意点としては、部屋稼働率やシーズナリティを適正に設定すること、あるいは固定費と比例費を詳細に設定すること、さらにシフト管理などの運営オペレーションを見直すこが必要となる。とりわけ部屋稼働率は大きな要素になる。
余談ではあるが、稼働率については、「定員稼働率」と「客室稼働率」の2つの概念が、一般的な認識の仕方だった。そして、定員を重視した収益構造の下で、極論すれば料飲部門からGOPを創出していたといえる。
ある旅館の料金表(下表-左側)をみると、2~3人で料金が異なっている。これは当然のことだが、仮に3人で利用した料金が採算分岐点だったとしよう。料飲率を便宜的に50%に設定した場合、室料は2万2050円となる。これを「適正室料」として以下の計算を進めてみよう。 この料飲率から算出した1人当たりの額面は7350円となる。一方、2人利用の時に料飲率50%ならば、額面は500円高くなる。表中には表れていないが、室料は1人分の単価と同額であり適正室料を大きく下回る。また、料飲オペレーションを3人利用の額面と同じにした場合でも、適正室料には5350円不足してしまう。これに対して4人の場合は、3人と同じ単価にしているのがミソで、3人宿泊と同じ料飲オペレーションならば、適正室料よりも7350円アップする。
多少、煩雑な数字になってしまったが、これを1万円を基準に上記と同じ条件の下でイメージ化(下表-右側)してみると、適正室料の1万5000円に対して、人数によって室料が変わってくる。この違いの生じる原因が、定員稼働率を前提にした料金体系だった。
室料とは、そうした要因左右されるものであってはならない。なぜなら、室料が定員によって変動するのでは、GOPはもとより基本的な予算編成など何の意味ももたなくなるからだ。しばしば耳にする「2人客ばかりで利益があがらない」といったセリフは、定員を前提にした発想では、いかんともしがたい。
そこで、定員ではなく客室稼働率に注目しなければならない。利用が2人でも4人であっても、とにかく客室が稼働していれば、GOPは確実に取れるからだ。その時の理想は「70%稼働」にある。
さて、本題に戻ろう。料飲率と室料を明確にした経営は、決して机上の空論ではない。ただし、料飲と不動産の2つのオペレーションが適正に運用されていること、と言う条件が大前提だ。そして、適正室料を確保できれば、おのずとGOPはついてくる。
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