「儲けるための旅館経営」 その79
価格志向対応には覚悟が必要

Press release
  2011.5.7/観光経済新聞

これまで提唱を続けてきた「接客要員比率」について、視点を換えて述べてみたい。前段として今回は、現状を簡単に整理しておく。経営者にとって周知のことではあるが、自社でほしい価格帯のパイが限られてきた。とりわけ、リーマンショック以降の価格志向圧力は、経営に大きな負担を強いており、さらに東日本大地震と原発事故が追い打ちをかけた形だ。しかし、そうした災害は予期できないものである一方、それを理由に「仕方がない」と経営に手をこまねくこともできない。

さて、バブル経済の崩壊以降は、もっとも安直で現実的な対応策として、1ランク下の価格帯を狙うことが恒常化している。もちろん、そうした価格帯をメインする既存のグループがいる。そのグループにとっては、1ランク上の層が攻勢をかけてくるのは脅威にほかならない。しかし、市場原理に照らせばそうした成り行きも否定できない。

そこで考えるべきことがらは、それぞれのグループがGOPをいかに確保するかだ。まず、価格を引き下げるグループについては、2つの大きな課題がある。第1点は、ひとたび価格を下げてしまえば、それを元に戻すのに多大な経営努力が求められるということ。例えとして適切さには欠けるが、違法な薬物依存にも似ている。一時しのぎのつもりであっても、大半の場合に常用化してしまう。また、一度依存してしまうと再犯性が高く、立ち直りも難しいために全てを失うことになる。数十年かけて培ってきた老舗の暖簾も、簡単に損なわれてしまう。それに対して、よほどの覚悟が必要だということ。

もう1点は、価格帯を下げても、既存のハードをマイナーチェンジすることはできない。1万5000円で売っていた部屋を、70008000円に値下げしても部屋を半分に仕切って売ることはできない。そして、初期投資の残債が価格引き下げにスライドするわけでもない。あるいは残債がなかったとしても、優位性を象徴してきたハードには、相応のメンテナンスフィーがかかるし、一方でリニューアルが求められる時期にもきている。経営者にとって、分かりすぎるほど分かっている。例えば、東京ディズニーランドが登場した後、老舗の遊園地が次々と閉園した。そうした閉園をディズニーランドのせいにすることはできない。次々と登場する新しいアトラクションは、儲かった結果ではなく当初から中長期に計画されていたものだという。新味性に欠けた既存遊園地の遊具類では、まったく太刀打ちできなかった。装置産業の宿命ともいえる構図がそこにある。そして、これらが示唆しているのは、一時しのぎを云々する以上に、計画性とオペレーションが問われていることだ。

 一方、価格攻勢を受ける側のグループは、一時しのぎか恒常化かを見極めることが第1の課題。一時しのぎならば、嵐が通り過ぎるのを待てばいいが、恒常化と見定めれば早い段階で手を打つ必要がある。この場合、地域性が1つのカギとなろう。一般論として捉えると、地域の中で価格攻勢に動く側はいわゆる大型館であり、受ける側は中小館の構図がある。社会学では、ゲゼルシャフト(利益追求が求心力となった都市社会)とゲマインシャフト(地縁・血縁などの地域社会が中心)といった捉え方がある。前者を大型館、後者を小型館とあてはめるのはムリもあるが、ニュアンスとして理解できるはずだ。その延長線として攻勢を受ける側は、1〜2時間圏内の需要を徹底的に掘り起こす。さらに、大型館では真似のできない小回りのよさを発揮することだ。

その際、オペレーションは基本フレームのみを確実に固めて、細部にはアソビを持たせておく必要がある。この基本フレームについては、80年代末ごろがピークだったJC(日本青年会議所)の参加世代が、現在の経営世代の中心になっているが、当時の発想は通じなくなっていると知るべきだろう。現在に通じる基本フレームだけは、発想を新たに構築しなければならない。それがGOPを根幹に置いた経営発想といえる。(つづく)