今回の東北関東大震災に被災された皆さまに、衷心よりお見舞い申し上げます。旅館の灯が消えることのないことを、ただただ念じるばかりです。そして、未曾有の災害であり、今後の展望は難しいのも確かですが、本稿が掲載される頃には、復興への槌音が報じ始められていることを信じて已みません。また、他の地域におかれましても、観光性の宿泊需要の委縮は逃れられないものがあり、被災地が元気に蘇ることを祈りつつ、日本の伝統的な旅館の灯を守るために奮闘されることを祈念申し上げます。
さて、今回の震災は、日本の景気回復を後退させるのが必定であっても、ゆえに旅館業の後退まで認めるわけにはいかな。前回の末尾で「経営を投げ出さないこと」と記したのは、もちろん今回の震災を予期したからではない。ただ、厳しい状況への対処という観点で捉えれば、本質的な部分に何ら変わりはない。いい換えれば、改善しなければならない点は、今後も変わらないということだ。そこで、前回までのテーマに戻って先を進めよう。
宿泊産業としての旅館で最終的に問われるのは、建物としての情緒といえる。まさしく、それが不動産業の側面だ。それゆえに室料を念頭にした捉え方が必要になる。たびたび指摘していることだが、ビジネスホテルの客室は、就寝の単機能を満たすのが必用条件であることから、1室10平米そこそこでも条件を満たせる。宿泊単価は不動産業として最低ラインの5000円を確保している。これに対して旅館の客室は、就寝だけでなく情緒まで満たすために3倍の30平米を備え、それを1万円以下で売っている。しかも、さまざまな接客サービス、大浴場などのパブリック、そして朝夕の2食を加えた売価が1万円なのだ。
実際問題としては、2人利用で1室の1日売上が2万円だとしても、室料に充当できる金額として50%の1万円を確保できているか疑わしい。そうした観点から「コストバランス50%」(売上に対する人件費、原材料、消耗品と備品補充の合計)を提唱したが、仮に室料1万円が確保できたとしても、ビジネスホテルの10平米5000円に比べて、30平米1万円では不動産業としての採算が合わない。いわば、スタートの時点から大きなハンディを背負っているのが、旅館業の料金体系といえる。そして、コストバランス50%の内訳である人件費や原材料などの合計が50%超であれば、GOPは必然的に低水準にならざるを得ない。
さらに、価格志向圧力の強まりで1万円が8000円に下がり、なお引き下げの余儀ない状況が続いている。単価が下がっても、不動産業として提供する1室30平米の広さは変わらない。それは、単価が下がっても1室として確保しなければならない室料分は、何ら変わらないということだ。業界には「今日の客室は、明日は売れない」という現実がある。その結果、室料分の確保ができなくとも当面のキャッシュフローを考えると、割引価格でも売らなければならない現実も一方にある。ただし、そうした対処はどこまでも一時的なものであって、恒久化すれば経営の根幹が揺らいでしまう。
極めて模式図的に室料分で1万円が必用だと想定してみる。8000円で2人利用の1万6000円から1万円を引いた額が、コストバランス50%の人件費、原材料、消耗品と備品補充の合計額にあたる。もちろん、その額面は50%どころか40%にも満たない。これでは十分な対応が難しい。だが、そこで妥協すれば行く先は廃業しかない。極論ともいえるが、発想を転換してコストバランス40%で経営を成り立たせる必要がある。
つまり、人件費や原材料、消耗品と備品補充などを精査し、室料を除いた額面の範囲内に収める工夫をする。とりわけ人件費が大きなウエートを占めることから、適正な社員定数を見極め、さらに旅館たるゆえんの情緒を損なうことなく対応するために、接客要員比率の把握を訴えている。これらをトータルに整合させ改善することが室料確保(GOPアップ)につながる急務といえる。(つづく)
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