「儲けるための旅館経営」 その74
「接客要員比率」を考える(4)

Press release
  2011.3.26/観光経済新聞


  前回までの話を簡潔にまとめれば、価格の2極化が進む一方で構造的に室料がとれない現実に対して、社員定数を見直して接客人員比率を向上させる提案にほかならない。

ある温泉地では、ファンド系や異業種の経営資本に吸収された名目だけの日本旅館が、価格競争でしのぎを削っている。伝統の日本旅館も否応なく、そうした渦中にのみこまれている。老舗旅館といえども単価2万円超だけに頼っていては、もはや経営を維持できない現実があるわけだ。ある経営者がいみじくも言った。「地域の1番店でなければ生き残れないのか」と。2番手以下の旅館は、古い言葉だが「流れに棹さす」ことでしか生き残れない厳しい状況がある。それによって地域の旅館群が再編されるのかも知れないが、そのときに「生き残る側」でなければならない。そのために最も重要なことは「経営を投げ出さない」ことだ。

前回「さまざまな場面で接客要員の関与がなければ、旅館らしさは失せてしまう」あるいは「夕食がついているのが当たり前の常識」と述べたが、その接客と夕食が旅館にとって両刃の剣ともいえる。だが、両刃の一方をナマクラにするだけでも、日本旅館の態は薄いものになってしまう。例えば、接客や1泊2食の「夕食」のどちらか一方でも刃引きをしてしまえば、日本人が認めている「日本旅館」としてのブランド力が十分でなくなる。そこに、現実の低価格化への対応と、コスト削減のジレンマが生じる。

譬えとしての適正さを容赦してもらえば、刃物には日本刀のように鋭いものもあれば、鋭利さには欠けるが斧ように丸太を簡単に割り裂く刃物もある。2つの刃物のうち従来の接客は、個々の場面で日本刀のような鋭利な対応を理想に描いていた感がある。例えば、夕食を考えてみると、品数や提供方法など細部にわたる一つひとつに鋭利(最善)な刃を求めてきた。そこでの満足の総和を食事に対する評価と受けとめてきたともいえる。だが、夕食提供の全体を丸太のように捉えて、個々の満足よりも全体としての満足を満たす斧のような切り方も考えられるはずだ。

そして、低価格化が進む状況下では、斧のような力技ともいえる対応が必要だと考える。例えば夕食のバイキング形式は、料理の一つひとつについてみれば鋭利さによる感動こそ乏しいが、品数と量や好みによるチョイスなどで、細部へのこだわり対応よりも全体的な満足度で圧倒することも可能といえよう。これは、宴会形式についても同様のことがいえる。また、前回の稿で触れた団塊世代の多くは、1万円以下の値ごろ感にシフトするだけでなく、バイキング形式の夕食に違和感を抱いていない。むしろ、単価に対して当然と受けとめている話をしばしば耳にする。

もう一つの刃である接客についても、日本人の好きな目から鼻へ抜けるような鋭利な対応を理想としなければ、斧でも十分に対処できる。いい換えれば、接客要員の数が十分であれば、当面の満足は得られるということだ。筆者はこれまでもアメリカの海兵隊方式をしばしば例示してきた。旅館にとっての最大の武器は、接客にあると考えた結果といってもいい。したがって、全社員が接客の基礎素養を身につけておき、通常は与えられた部門の業務をこなし、必用な場面では接客力を発揮する。オペレーションとしては3階層運営やオールラウンド化した要員を、適切に運用すること。このオペレーション部分についてはノウハウを必用とするが、そのノウハウを活用するには、前述した「経営を投げ出さない」という経営者の意識が、何よりも必用なことといえる。

そのための第一歩として筆者は、適正な社員定数と接客要員比率を自ら捉え直してみることを提唱している。それらの計算は、これまで述べてきたように決して難しいものではない。むしろ、簡単すぎるほどだ。導入部のそうした意識は、結果として経営を投げ出さないことにつながると考えている。(つづく)