「儲けるための旅館経営」 その71
「接客要員比率」を考える(1)

Press release
  2011.3.5/観光経済新聞


  今後の業界がどう推移するのかは、社会情勢に照らして考える必要がある。1つは高齢化によって年金生活者が増加すること。もう1つは、若者層の中で年収が200万円程度の非正規労働者、いわゆるフリーター層が増加傾向にあること。報道された一説では、年収400万円に満たない若者層が、同世代の半数ぐらいいると言う。若者層にとって年収400万円は、結婚して普通の生活を営む条件とされており、それを満たせないことが若者の独身化にもつながっている。また、昨年末にイギリスのエコノミスト誌が、日本の未来を「穏やかな衰退」と報じたことは記憶に新しいことで、その要因として少子高齢社会を指摘している。この問題は日本にとって最重要ではあるが、筆者はそれを論じる立場ではない。もっと身近な旅館経営の立場から、その影響を考えたい。

日本の少子高齢社会化が進み、年金生活者や年収200万円の若者が、人口に占める割合が高まっている状況を旅館経営に置き換えると、泊りがけの旅行をする際に「1泊いくらまで出せるか」を考えなければならない。日常のレジャーでは「1日遊んで5000円。せいぜい出せても1万円が限界」と言う消費者の声が、現在の実態を端的に表している。いい換えれば、宿泊費は1万円以下にならざるを得なくなっている。もちろん、2万円超も可能な層が相当数いることは否定しないが、主流でないのは確かだ。一般的な旅館がその層を狙うのは、決して得策でない。とくに100室規模を超えた旅館では、1万円以下を念頭にした経営施策の組み立てが迫られている。

これまでの発想で捉えるならば「安い客層」だが、客数(稼働率)を稼げば売上は確保できる。そうした客数を稼ぐには、数のまとまった団体客が必要だが、これが難しいのはいうまでもない。現時点では、旅行業者が展開する募集旅行のような団体を受けなければならない。いずれの団体でも多くで問題となるのが、旅行業者側から示される「お客何人に対して接客係を何人つける」と言う条件がある。今に始まったものではないが、経営環境が厳しくなった今日では、より切実な問題になっている。だが、その条件を受け入れなければ、送客は望めない。受け入れれば低単価にもかかわれず、人手だけは従来並みとなってしまう。売上の額面は増えても、コストも増えて収支がなりたたない。詰るところGOPが出てこない。

そこで、オペレーションを変える必要がある。前々回の稿で「客室規模約80室、平均消費単価8000円、従業員数25人の旅館がある。満館時で280人程度の収容だが、それを25人の社員で切りまわしている」と例示した旅館は、決してサービスレスを徹底した無味乾燥の宿泊施設ではない。「単価8000円に求められるサービス内容は、おのずと限界があり、その中に独自のサプライズを潜ませておけば、満足度や好感度を満たすことも可能だ」と評したように、日本旅館と呼べる伝統の姿を「それなり」に残している。また、満館日は年間に100日程度であり、前述した「~接客係を何人つける」の条件にしても、チェックインからチェックアウトまでトータルに求められているわけではない。夕食時のサービス態勢であることを考えれば、それさえ乗り切れれば遣り繰りはさほど難しいものではない。

それを可能とするのが、3階層運営と全社員のオールラウンド化によるオペレーションだ。基本は、忙しい時間帯に事務所や調理場の要員が何をしているのかを精査してみること。それとサービス維持に何人の接客要員がかかわっているかを照らし合わせると、答えはみえてくる。これまで述べてきた社員定数(適正な社員数)は、根底に「接客人員比率」の概念がある。総社員数に対して、どれだけの要員が接客に対応しているかだ。例えば、総勢80人の社員のうち30数人の接客係だけの対応だと、接客要員比率は40%ほどだが、他部門が接客要員化すれば、比率は一気に上がることになる。接客係を何人つけるかの条件もクリアできる。(つづく)