前回の料飲率と室料のうち、室料に対する捉え方を簡単に整理してみよう。売価から料飲率を差し引いた残り――すなわち、料理の原材料費、調理から提供、洗浄などの後処理にかかわるすべての人件費を差し引いたものとなる。つまり、室料とは宿泊部門の諸コスト(フロント、経理、予約、施設、清掃、浴場などにかかわる人件費)や一般販売管理費、そしてGOPなどによって構成されている。
従来の発想と異なる点は、GOPの確保を前提にすべてを再構築している点だ。例えば、これまで「料理原価は」との問いに対して、ほとんどの旅館が「料理原価=原材料費」とする考え方だった。原材料が重要なファクターであることは、確かにまちがいない。だが、どんなに高価な食材を使っても、調理の技が伴わなければカネはとれない。この当たり前のことが強調されすぎて(あるいは、当たり前すぎて検証されずに)、厨房がブラックボックス化してきたことに気づく必要がある。一歩進んで厨房改革を進めた旅館でも「料理原価=原材料費」の発想は払拭できていない。
ここでの大きな要因の1つは、組織の大半がタテ割なのに対して、実体運営はヨコ連携になっていることだ。不動産業と料飲業の2つのオペレーションを同時に運用していることは、最近では「話として理解できる」といったオーナーが増えている。したがって、人件費についても、以前のように「人件費が高くて」とドンブリ勘定的に嘆くのではなく、厨房の人件費、接客の人件費という具合に特定し、厨房要員のパート化、接客のスリム化といった動きになってきた。
だが、ここまで来ても「GOP」は住所不定ともいえる所在なさがついて回っている。多少辛辣にいえば、不動産業と料飲業の「どこからか滲み出てくる」といった感じのオーナーが多い。もう少し積極的に「滲み出てくる場所」を特定し、そのための施策を展開しているケースもある。
さて、左下の図を見てほしい。例えば、人件費については宿泊と料理にかかわる部分で区分けしている。一見すれば、前述の動きに照らして「これぐらいは行っている」と言うオーナーも少なくないはずだ。だが、GOPの扱いについて明確なポジショニングをしているか否かは疑問といえる。GOPは、どこからか滲みでたものの積算ではない。
多少の語弊はあるが、「100万円の販売から15万円の利益を上げろ」という考え方と、最初から「85万円ですべてを賄え」と言うのでは、結果が同じになったとしても中身の意味が違う。つまり、15万円の利益が上がるか否かは、現場に委ねられているわけだ。未達に終わるケースも容易に想定できる。この15万円がGOPだとするならば、GOPを達成できないことになる。どこからか滲みでる(積極的に滲みださせる)といった発想では、不安定要素が拭いきれない。GOP創出がオーナーの専管業務であるならば、それは許されないはずだ。
これに対して、15万円を最初から差し引いた85万円で賄う方式であれば、確実に15%のGOPが確保できる計算になる。かつて、プロフィットセンターとコストセンターについて記したことがある。利益を生む部門と予算を消化する部門であり、コストセンターでもプロフィットの概念は欠かせないと述べた。この場合、100万円で15万円のプロフィット生み出すのではなく、85万円で賄う工夫そのものが15万円のプロフィットと評価できるわけだ。
料飲率と室料の明確化によって、GOPは住所不定でなくなる。旅館の経営は「室料」を確保できているか否かが大前提なのを再認識してほしい。
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