見通しの暗い話で恐縮だが、現実は現実として捉えた上で、今後の展開を組み立てることが、現在ではとくに必用なことだと考えている。旅館の売上傾向として一般的に言われていることは、2008年9月のリーマンショックで、08年度下期は前年比15%ぐらい大きく落とし、09年度はその15%減の状況も持ちこたえられず、さらに10%前後の低下をした。そして、10年度もその状況を余儀なくされている。結果としてリーマン以降で年商は3割ほど低下したことになる。
そうした中で昨年、売上を伸ばしている旅館もあるが、それでもリーマンショック前の売り上げには至っていない。大きな原因は、稼働率の伸び悩みだ。従来のシーズン波動に加えて、曜日波動が顕著になっている。売上を伸ばした旅館をみると、年間100日の高稼働日は従来以上に伸ばしているのだが、残りの低稼働日の落ち込みが従来よりも大きくなって伸び足を引っ張っている。
さらに気になるのは、価格志向の圧力が強まって単価の引き下げが、依然として続いていることだ。ここにも、最近の消費傾向を示す顕著な一例がある。ある観光地の大型旅館では、1万円台から2万円超までの価格帯を設定していた。これまでの売れ方をみると、リーマン以前も1万円台から埋まる価格志向はあったが、それでも低価格帯が売り切れると2万円超でもなんとか埋まっていた。ところが、そのパターンが崩れ始めた。対応策として昨年は、単価を平均で2000円ほど単価を引き下げた。低価格帯から埋まるのは変わらないだが、一定の額に達したあとは売れなくなった。
また、旅館が大小合わせて11軒ほどある温泉地では、GOPを確保した健全経営は1軒だけで、残り10軒中の3軒がサービサー(債権回収会社)に回された。ご存知のことと思うがサービサーは、弁護士法に基づいて管理回収を行う専門の会社。一般に債券の管理回収は、原債権者の金融機関などが管理回収を行うものだが、不良債権化した債権は背後にさまざまな要素が複合化している。そうした債券を効率的に処理するのがサービサーだ。そうなると前述3軒の旅館の行く末は、早晩、厳しい状況が待っている。
本題に戻ろう。冒頭で挙げたように、この現実に面と向かった対応が不可欠といえる。結論からいえば、年商は右肩あがりでなく前年比で5%減ぐらいの実況を想定し、それでもGOP15%は確実に上げられる経営を組み立てていくことだ。
温泉地名を出すのは憚られるが、その温泉地に客室規模約80室、平均消費単価8000円、従業員数25人の旅館がある。満館で280人程度の収容だが、それを25人で切りまわしている。ただし、満館日は年間100日程度であり、それを乗り切れれば遣り繰りはさほど難しいものではない。また、単価8000円に求められるサービス内容は、おのずと限界があり、その中に独自のサプライズを潜ませておけば、満足度や好感度を満たすことも可能だ。
そうした場合の基本的な運営手法では、接客とフロント・ロビー(売店含む)の一体化が第1優先だ。当然の話だが、夕食時間はフロントに留守番程度の人間が必用なだけで、他は利用客がいないので接客に回っても問題ない。第2は事務所要員を接客に回す。夕刻の一定時間を過ぎると電話応対が主な業務になり、最低限の人数を残してあとは接客に回せる。もちろん、事務所には本来の業務がある。その業務と接客業務は繁忙の面で状況が異なる。宿泊客が集中する週末や特定日をみると、それらの日は接客要員が不足する。一方、事務所は曜日とは関係なく月末の締め日や支払日などが業務過剰になるが、それ以外の日は問題ない。
つまり、フロント、ロビー、接客、事務についてそれぞれ何人必用だから、合計で「何人態勢でなければならない」とする従来のタテ割発想は、今日では「百害あって一利なし」と断じていい。各業務内容をつぶさに解析し、社員定数を根本から見直すことだ。(つづく)
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