コストバランスについて書き続けているが、この課題を深耕していると従来の経営のあり方を振り返る必要性が時折り生じる。度々指摘していることだが、従来の発想方法や常識を見直す必要があるからだ。今回は「始めに形ありき」について考えてみる。
始めに形ありきの意識は、少なからず誰にでもある。俗っぽく言えば「こうあるべきだ」との思いだ。男はこうあるべき、女はこうあるべき……と枚挙に暇がないのだが、その思いと目の前の現実は、往々にしてミスマッチを起こしている。旅館業ならば、旅館のサービス提供はこうあるべきだと、永年にわたって培ってきた伝統の姿が前提となる。一方で、そう思っている「べきだ」が果たして正しいのかどうか。経営数字と集客へ向けたニーズへの対応を照らし合わせ、さらに今後の展開を考えれば、この自問自答も悩ましい。結果としてジレンマに陥る。
まず、経営数字を考えてみよう。宿泊単価が2万円超ならば、これとあれと……と数え上げたサービスが仮に20だとして、1万5000円ならば5削減して15、1万円以下ならば10削減する。単価と提供サービス数を比例させることは合理的なようで、半面では「そうした割りきりではない」との思いもある。それは、旅館経営者の矜持ともうけとめられるし、日本の宿としての旅館を考えれば、あるべき姿として当然の帰結と言えなくもない。
問題は、提供サービス数を厳密に区分し検証しているか、各サービスのコストを正確に把握しているかの2点にある。筆者は、永年にわたってコスト解析の必要性を訴え続けている。本シリーズの冒頭で「業務実体とコストの整合図る」(第2回)と提起したあと、接客コストを中心に、室料=宿泊にかかわるすべての費用(@宿泊関連人件費A販管費B建物減価償却費CGOP)、料飲サービス料=料理提供にかかわるすべての費用(@原材料費A人件費=調理、料理輸送、接客、下膳、洗浄などB消耗品類)の2大区分を行い、そこから「どこで儲けて、どこで損をしているか」を洗い直し、儲けの出る体質への転換を提起してきた(第30〜34回)。
例えば、提供サービス数の区分と各サービスのコストでは、前述の20あるサービスの3つ(ABC)を取りだした場合
(上図)、図右側の斜線部分のように、AとB、BとCようにどちらに属すのか曖昧な部分が少なからずある。その曖昧部分をきちんと整理すれば、図中央のようにムダを削除できる。また、単価に照らして提供サービスの一部を省略しようとした場合、曖昧部分のある右側の図では、どれも「あちらとの兼ね合いがあるから」と妥協せざるを得なくなる。結果として削減できない。だが、中央のように区分が明確であれば、「1万円以下なのでBは削減していいだろう」と納得のいく論拠が得られる。
また、サービス区分が曖昧だと、単価別にサービスを省略しても、コストに換算して積算すると、意外な結果に驚くはずだ。一言でいえば、想像以上にコストが膨らんでいる。これは、曖昧部分がABCのそれぞれに包含されて、図の左側のような肥大化をみせるためだ。
そして、もっとも避けるべきは、左側のABCを「旅館のサービス提供ではやむを得ない」とする従来の常識だといえる。そうした発想では運営システムの不備が、まったくといえるほど問題視されていない。これではGOP15%などおぼつかない。
肝心なことは、こうした解析結果を自館の実態と、どう整合させるかが不可欠なのは言うまでもない。単価と年商の現実を、的確に捉えた上で具体的な展開に反映させる必要がある。それには手前ミソではないが、相応の解析力が必用とするが、まず適正社員定数の把握をしてほしい。これは、これまでの各回で示したように難しい計算ではない。(つづく)
|