「儲けるための旅館経営」 その66
年商の28%人件費で運営改革

Press release
  2011.1.29/観光経済新聞


 前2回は、総売上(年商額)に対して人件費が28%、原材料と消耗品それに備品補充の22%を合算した「コストバランス50%」の発想(第44回「3階層運営でコスト50%図る」参照)を、実際のデータによるケーススタディ(第4852回)に照らしながら「社員定数」(適正社員数)の観点から再検証してみた。

ここで言う「コストバランス50%」とは、言葉を換えれば「GOP15%確保」を大前提とした発想にほかならない。このGOP15%は、リニューアルなどの設備投資に際して、健全な経営をしていることの指標として重視されている点は、改めて説明するまでもないだろう。GOP10%以下であれば、有利子債務ゼロならともかく、一般には経営面での将来性にイエローカードが出ているとみなされる。例えば、融資などのシチュエーションで、そうした経験をもつ経営者も少なくないはずだ。

また、客室規模が同程度で年商の額面に大きな差異が生じているケースがある。例えば、年商額で10億円と5億円といった現実的な違いだ。GOP15%を想定すると、10億円で額面1億5000万円、5億円で7500万円。きわめて単純に計算できる。逆に、額面から発想して年商5億円のケースで1億5000万円を達成しようとすれば、GOPは30%となる。これも単純に計算できる。

この場合、5億円でGOP30%をあげることも不可能ではないが、現下の経営環境に照らすと、従来の運営手法の延長線上で達成するのは、極めて難しいといえよう。ところが現実をみると、GOPの15%ではなく額面にこだわっているケースが多くみられる。譬えるならば、ある種の「無い物ねだり」にも等しい。何が無い物かと言えば、さまざまな運営手法と経営努力が不十分にもかかわらず、GOPだけは30%を求めるような「ねだり方」だ。つまり、厳しい時代に対応した運営手法が確立されておらず、経営努力は以前にも増して行っているはずだが、それが空回りしている状況下で、GOPだけは確保したいという発想に等しい。これは、30%などの過大な数字でなく、10%であっても同様のことがいえる。

いずれにしても、GOPと年商は連動している。GOPを高く設定すれば、他のコストにしわ寄せがくる。それはグレード面でマイナスに影響する。逆にコストを高くしてグレードを維持すれば、GOPが目減りする。いわば、GOPと年商とグレードが「三竦(すく)み」の関係にあり、そこに経営者のジレンマが生じる根源がある。

では、コストは本当に下げられないのか。年商額に対してGOP15%を差し引いた85%をコスト(減価償却ほか経営に必要なすべての金額)とした場合、細目を1つずつ積算すると85の数字では収まらないことが多々ある。そこで、細部のムダを洗い出し、経費の削減に努めてきたのが、これまでのあり方だった。実際に、これ以上の節減は不可能な域にまで到達しているケースもあるだろう。そうした現状は、決して否定しない。否定すべきは、削減を前提にした発想であり、そこに変革のメスを入れる余地がある。

極めてシンプル考えると、年商額から逆算して適正な社員数(定数)が割り出せる。年商額の28%を人件費総額(パートや外注費を含む)とし、それを平均給与で割る。その人数が、現状で雇える社員数にほかならない。分相応な定数と言えば語弊もあるが、これまで削減を前提にした発想が成り立った一因は、「分不相応」な状況だったことと表裏だ。

ここで強調しておきたいことは、前述のように従来の運営手法による削減は、すでに限界にきている。GOP15%が確保できる適正社員数を前提に、新たな運営手法を構築することが、旅館にとって焦眉の急であると言うことだ。人数を減らしても労働強化にならず、しかも消費単価に見合ったグレードを維持できるのが、年商額から割り出す社員定数の発想なのだ。「必要は発明の母」と言われるように、限られた人数でも現状維持は可能であり、工夫しだいで単価アップ(年商拡大)も可能だ。(つづく)