「儲けるための旅館経営」 その65
年商額から社員数チェックを

Press release
  2011.1.15/観光経済新聞

前回に続いて年商額から算出した適正な社員数(定数)を、実際の経営データに照らして検証する。重複となるが前提条件は、@コストバランスとしての「対総売上50%」(内訳=「人件費」の28%と「原材料+消耗品と備品補充」の22%を合算)A人件費の1人当たり平均は年間300万円を想定B具体的な経営数値はケーススタディの5旅館(第4852回参照)から抽出――など。

◆検証2

今回の対象旅館は、前回のケースより30室ほど大型で平均単価は同じだが、GOPは9%にとどまっていたケース(第52回「定数2割圧縮でGOP6%増」=ケーススタディ5=参照、諸数値は右表再掲)だ。

まず、同館の年商額8億円をベースに置いて、前提条件のコストバランスに照らすと、人件費分としては年商の28%である2億2400万円が総額となる計算だ。この総額に対して1人年間300万円で定数を算出すると、7475人前後が適正数となる。

では、同館の実勢はどうか。社員数は総勢77人であり、年間の人件費総額は約2億1900万円だ。1人当たり人件費を単純計算をすると、年間約284万円強となる。前提条件で想定している300万円より16万円ほど下回っている。

加えて、社員の人件費のほかに、年間で4500万円の外注費を支出している。つまり、同館の人件費としての総がかりコストは、社員分の2億1900万円とパートなど外注分の4500万円を合計した2億6400万円となっている。年商額の28%以内とするコストバランスに照らしたとき、5%増の33%となる。

一方、年商の28%である2億2400万円から社員分の2億1900万円を引くと、残りは2100万円だ。これを同館の平均給与ベースに照らして再計算(社員10対パート6程度の想定)をすると約12人分で、社員の77人と合わせた総数は89人体勢と算出できる。仮に、この給与水準を認めても現状は13人の超過だ。これは、経営側のGOPが不十分なだけでなく、社員のES(社員満足)も満たされない。

同館の問題点は、前回のケースが97室で年間10億円を売り上げていたのに対して、127室で8億円にとどまっていることだ。しかも、平均単価が同額であることを勘案すると、稼働率の低さが致命的な欠陥となっている。それが年商に反映されているわけであり、年商によって適正な社員定数が算出できる根拠もそこにある。

 なぜならば、稼働率が低く年商が伸び悩んでいるケースでの社員の生産性は、当然ながら低い。俗な言い方をすれば、ムダな人件費が出ている。例えば、前回の97室で9293人に対して、127室なら120人という比例増は、同様に年商が13億円に比例増をしていなければ成り立たない。このことは、逆の発想をすれば一目瞭然だ。年商8億円で賄える社員定数は7475人でしかない。今回のように同単価で、10億円と8億円の違いは、8億円の方は社員を遊ばせていることになる。これは社員の責任でなく、適切な運営オペレーションの不在と言う経営側の責任だと知る必要が大だ。

年商額の28%を平均給与額で割れば、適正な社員定数が出る。数字が現状の社員数を上回っていれば、運営オペレーションを見直す警鐘といえる。(つづく)