適正な社員数(定数)による運営は、GOPアップの難しい現下の経営環境では欠くことができない。そこで、定数の基準となるのが「年商額」であるとの観点から考察を続けてきた。ここで、実際の経営データに照らして検証してみたい。
検証にあたって前提条件を整理しておこう。第1点は、すでに述べてきた「コストバランス」としての「対総売上(年商額)50%」だ。ここで示している50%とは、「人件費」の28%のほかに「原材料+消耗品と備品補充」の22%を合算したものだ。第2点は人件費の額面で、これについては集積した多数の旅館データや一般企業の給与水準などを勘案した上で、1人当たり平均を年間300万円と便宜上想定している。
また、具体的な経営数値は、これまでにケーススタディとしてとりあげた5旅館(第48〜52回参照)から抽出することにした。
◆検証1
今回は、年商額に対して健全経営に欠かせないGOP15%を確保しているケースをみてみよう(第51回「適正定数と構成でGOP15%」=ケーススタディ4=参照、諸数値は右表再掲)。
まず、同館の年商額10億円をベースに置いて、前提条件のコストバランスに照らすと、人件費分としては年商の28%である2億8000万円が総額となる計算だ。この総額に対して1人年間300万円で定数を算出すると、93人前後が適正数となる。
では、同館の実勢はどうか。社員数は総勢76人であり、年間の人件費総額は約2億5000万円となっている。1人当たり人件費を単純計算をすると、年間約330万円弱となる。一般的な旅館の給与水準と比べると、比較的上位にランクされるようだ。
同館では社員の人件費のほかに、年間で3000万円の外注費を支出している。これにはパート社員の人件費も含まれている。社員とパートの人件費を単純比較はできないが、仮に労働時間や作業内容の難易度などでの比較が、社員10対パート6程度を想定すれば、3000万円は16〜17人分に相当する。したがって定数としての総数は92〜93人程度と考えてもいいだろう。そうなると、人件費としての総かかりコストの合計2億8000万円は、年商額の28%以内とするコストバランスに合致している。
視点を変えると、適正な定数での人件費総額は、コストバランス28%が妥当な比率としての証左と言ってもいいはずだ。また、前回までに再三にわたり指摘をしてきたように、年商額から割り出した適正定数は、GOPの確保に不可欠であるとともに、同館のように適正定数を大幅に下回っているケースからは、ES(社員満足)においても、相応に効果を発揮している実態がみてとれる。この点は、将来に向けた人材確保の面からも欠かせない要素だといえる。
いずれにしても、年商額から適正な社員定数を算出し、その人数に合った運営オペレーションの構築が大前提だ。それが、館内運営のオールラウンド化であり3階層運営だといえる。また、運営そのものをシステム化する配膳システムをはじめ、手がけねばならないことが山積している。そのためには、従来の発想(旅館の常識)を改めて問い直すことが出発点だと、筆者は考えている。(つづく)
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