「儲けるための旅館経営」 その63
人材を確保して新たな展開も

Press release
  2010.12.11/観光経済新聞

前回の「適正社員数が人材確保のカギ」について若干の補足を加えておきたい。これは、同じような施設規模とグレードの場合、何をもって比較するかの問題にも通じる。端的に言えば、ハード面と食材原価構成や接遇体制が同等にもかかわらず、年商に生じる5億円と10億円の違いは、多くの場合に館内オペレーションと立地条件が作用している。

このうちオペレーションについては大要を述べてきたので、今回は立地条件を考える。これには、マーケットからみた距離の問題がある。かつて、遠隔地に冠された「鄙びた」の言葉は、日常的快適さの不備や不足(簡素や多少の不便)があったとしても、それらを「情緒」として旅の楽しみの1つに数えられていた。だが、バブル時代のハードとソフトの競争は、遠隔地にあっても(あるいは遠隔地だからこそ)快適さと豪華さを追求し、鄙びた情緒を死語に追いやってしまった。

一方、消費者が1回の宿泊旅行に費やせる金額は、減少の一途にある。話をはしょれば、遠隔地で交通費がかさむと宿泊費の減る構図が、当然の帰結となる。5億円対10億円の差は極論にしても、交通費の影響は否めないはずだ。しかし、それが人材確保に欠かせない給与差に直結することは許されない、と筆者は考える。

確かに、都市部と地方では物価水準が違う。だが、それを口実に給与水準を必要以上に下げてしまえば、次代を託すはずの人材が、給与の高い地域や業種に吸い上げられるのも、当然の成り行きだろう。これは避けなければならない。

では、社員に異業種と遜色のない給与を払うために、経営者は必要以上の負担を強いられ、それを唯々諾々と受け入れなければならないのか。もちろん、それは論外であり、利益の出せない企業経営などはあり得ない。結論から言えば、年商が5億円でも10億円でも同程度の給与は支給できる。儲かっているか否かは、前回指摘したように利益の額面でなく、売上に対する利益率にある。健全経営に欠かせないGOP15%を確保しているか否かだ。

計算の便宜上100室規模でシミュレーションしてみよう(下表参照=再掲)。最近の一般データや入手した実況データから導き出される客室稼働率は、およそ4060%の範囲にある。仮に50%を想定した場合、年商10億円だと消費単価は2万7000円強になる。これは定員が2人想定なので、3人ならば1万8000円強。一方、5億円だと半分の1万3000円強(3人=9000円強)となる。適正社員数は93人対47人であり、消費単価の違いによって接遇の諸オペレーションが変わるために問題は生じないはずだ(オールラウンドや3階層運営を参照)。

つまり、年商に関係なく同額の人件費(1人当たり300万円)を計上できるだけでなく、健全経営の前提であるGOPはともに15%を確保できている。この15%を確実に押さえれば、年商をアップさせるための「次の一手」も可能になり、儲けの額面も高められる。(つづく)