「儲けるための旅館経営」 その62
適正社員数が人材確保のカギ

Press release
  2010.12.4/観光経済新聞

今回は適正社員定数の概念を、給与水準の角度から検証してみよう。基本的には、年商に対して各館の給与実態(平均給与額)を照らし合わせて割り出すものだ。これに対して従来の給与水準は、儲かっていれば高くなるし、逆に儲かっていないのに高く設定すれば、当然ながら理にかなっていない。したがって、価格志向が強まって売上が減少している旅館での実態は、従来の常識に従う限り給与水準の引き上げなど論外となってしまう。結果として、一般社会の給与水準との開きは、拡大しても縮まらない現実となって表れている。

そうした状況下で人材が集まらないと嘆いても、解決の道は見えてこない。筆者は、社員定数の見直しが、適正なCS(顧客満足)提供とES(従業員満足)の両面効果につながる点を何度となく述べてきた。

とりわけESについては、適正社員数の下でオールラウンド化や3階層運営を推進する上で重要課題の1つとなる。なぜならば、それらのオペレーションでは、社員個々のさまざまな力量が問われるわけであり、旅館業に適した人材を確保し育成していくための中長期的な人員計画においても、このESは重要な意味をもっていると認識する必要があるからだ。

さて、前段で述べた儲かっているか否かに話を戻そう。極論を言えば「儲かっている」と判断する根拠への認識が希薄で、「何となく儲かっている、いない」と言った感覚に委ねる部分が、これまでの常識的判断では多かった。これに対して最近では、GOPが判断基準になってきた。健全経営にはGOP15%以上の確保が不可欠と、さまざまな経営指針でも指摘されている。

では、GOP15%の内実はどうか。客室規模が100室の旅館で、年商が5億円と10億円の2例でシミュレーションしてみよう(下表参照)。年商の違いは、多くの場合にハード面や立地条件が作用したものであり、仮に料理や接遇面の作用を考慮すると、そこに少なからぬ矛盾が生じる。例えば、同じようなハードと立地条件、食材原価や接遇体制で年商に違いが生じていたとすれば、年商5億円の方は、いわば欠陥経営としか言いようがない。それには相応の解決策もあるが、その解決策は別の機会に譲り、ここではGOPの内実を考えたい。

端的に言えることは、年商10億円のGOP15%は1億5000万円なのに対し、5億円だと半分の7500万円。前段で述べたハードや立地条件に照らして、GOP15%を確保できていれば「善し」と判断するならば、額面の多寡はことさら問題視する必要はない。ところが、同じような規模の場合この額面数字の違いが、さまざまな比較で関心のマトとなってきた感が否めない。要は、健全経営が可能な比率と額面は、意味合いの次元が違う。

結論は、GOP1%で健全経営ができれば、給与水準は両者とも同じレベルを維持できる(下表・平均給与)。これは、業界として人材を確保するスタンダードな発想として、衆知を結集する必要性を筆者としては感じている。(つづく)