前2回にわたり、旅館の常識に疑問を呈してきた。ただし、常識を闇雲に否定するものでないことは冒頭に述べた。肝心なことは、常識だから「どうにもならない」と諦めてしまっては、何ら前へ進めない事実を、改めて認識する必要がある。そして、何よりも大切なのはGOP15%以上を確保し、旅館の健全経営を続けることにある。方法としては、各作業分野のシステム化をはじめ、オールラウンド化や3階層運営などマネジメントの再構築であり、その際の指標の1つになるのが社員定数だ。
今回は、社員定数の基本的な考え方を整理してみたい。前回、多様な価格帯の存在は必要不可欠だが、それによってマネジメントのスリム化までを「不可能」と決めつけてきたのではないかと提起した。確かに、旅館の価格設定は、単価グレードによってさまざまに変化する。だが、グレードがどう変わろうとも、「GOP15%は健全経営のために確保しなけれなならない」と言う経営面の絶対的な命題は変わらない。その障壁になってきたのは、客室規模や接遇形態、それに連動する単価グレードによって、それぞれのマネジメントが異なるために、指標となるべき黄金律などないと考えられてきた。その常識に疑問がある。
結論から言えば、年商と平均給与額によって、GOP15%確保に必要な社員数は計算できる。社員数に着目する理由は、総コストの中で人件費のウエートが高いためだ。GOP15%を確保するためには、コストバランスとして「人件費+原材料+備品と消耗品」の合計が、総売上(年商)の50%以内であること、そして50%の中で人件費は28%が適正値であることが、これまでの事例から実証的に割り出されている。つまり、年商に対して人件費を28%に収めることが、GOP確保のカギとなっている。
例えば、年商5億円の旅館を想定してみよう(下表参照=平均給与と1室実勢定員は計算の便宜上数値)。人件費28%の年間総額を平均給与額で割れば、雇用可能な社員数(47人)が算出できる。また、年間5億円を356日で割れば1日の平均売上が出る。1日に137万円の売上額は、客室規模が50室でも100室でも当然ながら変わらない。この売上日額を客室数で割れば、1室1日売上、1人当たりの客単価が弾き出せる。
50室の場合は単価が1万4000円弱であり、100室なら半分の7000円弱になる。単価に見合った接遇サービスや料理内容も、そこから算出できる。端的に言えるのは、 社員数47人で50室と100室では、当然ながら接客密度が変わる。言い換えれば、単価グレード見合った内容となる。
こうした平均値は、単なる理論値と考えがちだが、マネジメントが連動することで意味合いは一変する。例えば、100室での1日平均200人に対してオフ日100人、
オン日380人の大きな差がある。ゆえに理論値である社員数47人は、意味がないとするのは早計だ。冒頭の各作業分野のシステム化をはじめ、オールラウンド化や3階層運営などマネジメントの再構築によって、
47人でも現実に対応することが可能となる。社員定数を見直す発想が求められる理由が、実はそこにある。 |