「求める理想は実現する」その116
GOPを確保できない理由は
Press release
  2008.11.01/観光経済新聞

 GOPを求めるには、現状分析をどう捉えるかを問い直すことが第一歩だといえる。この場合、本シリーズでも何度か紹介している料飲率がカギを握っている。というのも、不動産業として適正な客室料金を確保できていなければ、GOPを確保できないのは自明の理だからだ。言い換えれば、料飲率が適正でないために室料を食いつぶしているケースがあまりにも多い。販売価格が低くなれば料飲比率も下げなくてはならない。
例えば、1泊2食で平均の単価が1万円の旅館を想定してみよう。売価に対して5000円の室料を確保しようとすれば、料飲率は50%の5000円に収めなければならない(下図-A)。ところが、1万円の売価を8000円に下げて売らなければならないケースで3つのパターンを考えてみよう。料飲比率50%(a-1)ならば室料は4000円となり、この時点で室料は1000円の目減りをしている。まして、従来と同じ5000円の料飲オペレーション(a-2)だと料飲率は60%を超えてしまう。逆にGOP確保を前提に室料5000円とすれば(a-3)、料飲率は38%に下げなければならないことになる。
さて、ここで問題としている料飲率について再度説明を加えなければならない。売価を下げれば「食材の原価を下げる」あるは「品数を減らす」と言った対応策が答えとして返ってくる。その一方では、「原価を下げて質を落とすことは評判にかかわる」「競争力が低下する」と言った声もある。どちらも切実な声だが、それらは対応策になっていない。いわば、現状を打破する答えになっていないことも、多くの経営者は実感している。ゆえにジレンマに陥るわけだ。
 これまでの経営の在り方をみると、「料理・サービス・施設」の3カテゴリーが根幹にあった。そうした中で、「料理」と言えば料理の「材料原価」であり、サービスはマンパワーに終始する発想にとらわれ続けてきた。したがって、料理には前述のジレンマ、あるいはマンパワーでも「人件費がかかり過ぎる」といった声があった。とりわけ、バブル崩壊後の価格破壊に翻弄されていたころには、サービスの簡素化が人員削除に直結し、評判や競争力を維持するためには……の論の前で、同様のジレンマが生じていた。
 結果として、売価に対してそれらが「不適切」なのにもかかわらず、その言葉を現実対応策として封印してきた。だが、臭いものに蓋をするのにも等しい対応では、何ら解決できないことを、経営破たんした多くの旅館が物語っている。それだけではない。破たんからファンドへ移行した旅館が、他の旅館の売価へも影響をおよぼして、類焼ともいえそうな状況さえ引き起こすケースも、決して少なくない。
 さらに、料理・サービス・施設の3カテゴリーの中で、施設に対する捉え方を顧みる必要がある。極論すれば、経営上で最も大きなファクターである施設は、まさに不動産業としての根幹に他ならない。適正な室料を確保できなければ、不動産業は成り立たないからだ。それにもかかわらず、施設は投資ばかりが前面に出過ぎてきた。維持や管理運営は、3カテゴリーのどこに帰属するのかが曖昧だった感が否めない。
 そこで筆者は、冒頭の料飲率へ向けた発想の転換を提唱した。ここに含まれるものは、従来の料理原価と位置付けられていた材料費のほかに、板前やパートなどの厨房人件費、料理の運搬や片づけに要する料理輸送費、客に供する接客人件費、そして片づけた後の食器洗浄までをトータル視して「料飲率」と位置付けた。そして、残りを室料として扱う発想だ。室料については別の機会に細術するが、ここには宿泊部門の諸コスト(フロント、経理、予約、施設、清掃、浴場など)や一般販売管理費、そして大命題のGOPなどが含まれている。旅館版ユニフォームシステムは、そうした発想に立脚する。

(つづく)

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