「儲けるための旅館経営」 その59
GOP確保を前提に発想転

Press release
  2010.11.13/観光経済新聞
  換前回は、旅館の常識に対する疑問としてシーズン波動をとり挙げ、運営面での繁閑によるパート雇用の増減などを例示したが、経営面ではもう一つの問題がある。かねて指摘している「貢ぎの構造」がそれだ。大半の旅館では、施設や接遇のグレードに応じた複数の価格を設定している。それを伝統とみれば「旅館の常識」といえる形態だが、経営面で捉えると現状にそぐわない面も出ているからだ。

例えば、大多数の旅館では、高単価客で得た儲けを低単価客で食いつぶしている実態がある。これをシーズン波動に置き換えれば、オン期の儲けをオフ期に吐き出している。旅館の常識として「儲けられるときに儲ける」わけだ。この常識に対して百歩譲ったとしても、年間ベースでGOPが確保されていない実態は譲ることができないはずだ。そこに、常識を疑問視しなければならない理由がある。プロフィットのない企業経営などあり得ない。

この問題は、視点を変えると「価格帯」と言う旅館の常識に一端を発している。なぜなら、旅館の常識では、多様な客室と接遇方法の組み合わせが可能であり、むしろそれを行えるようでなければ、マーケットに対して幅広い訴求ができず、経営的に制約をうける要因にもなる。

これは、旅館に限ったことではない。日本では、サービスや商品に対して「一物百値的な伝統」がある。いわば、客をみて値決めをする、あるいは扱い方を可変することで、売る方も買う方も納得するようなあり方だ。組み合わせるための品揃えや接客対応の仕組みができあがってきた。これによって料金のシーズナリティが常識化し、何ら疑問を抱くこともなく売買が成り立っていた。そう考えるのも、決してマト外れではないようだ。

こうした一物百値の日本的な伝統は、多様な組み合わせでさまざまなニーズに対応できるメリットがある一方、デメリットとして「画一的なマネジメントは不可能」と言う常識を成り立たせた。端的に言えば、寝食の寝は同グレードの客室であっても、食のグレーを変えることで多様な価格バリエーションが生まれる。それ自体は、前述したようにニーズの多様化にマッチしているが、オペレーションは複数を用意する必要がある。結果として「画一的なマネジメントは不可能」の常識がまかり通ることになる。

余談だが、かつて単価グレードによって浴衣や羽織の柄を変え、館内パブリックでお客の識別をしていた。もっとも、パブリックは共有であり、差別化がマネジメント上での意味がさほどないことから、いつの間にか消えていった。いわば、不用なオペレーションが簡素化されたわけだ。

本題に戻ろう。多様な価格帯の存在は必要不可欠だが、それによってマネジメントのスリム化までを「不可能」と決めつけてきたのが、従来のあり方ではなかったのか。これが旅館の常識への疑問符だ。かつて筆者は、マネジメントの要点として客層の絞り込みや稼働率70%を提唱してきた。言い換えれば、7000円から2万円まで受けたときの非効率性、労働生産性に照らした従業員数のあり方が根底となっている。

こうした考え方の基本は変わらない。むしろ、一定の絞り込みと効率化は、今後のGOP施策で重要性を増している。その延長線上に社員定数の課題が生まれてきた。

これまで、さまざまな角度から社員定数の見直しを唱えてきたが、前回述べたシーズナリティや今回の価格帯を、旅館の常識に照らしたとき 「理屈は分かるが…」と言った諦観の声が聞かれる。「ピーク時に稼がなければ」「ハードを生かす価格帯をなくせない」「伝統と格式も維持しなければ」ほか理由はさまざまだ。

  もっともな理由だが、そのために現状改革を「どうにもならない」と諦めてきた常識は、この際にきっぱり決別すべきだ。オールラウンド化や3階層運営、 各作業分野のシステム化など方法はある。そして、なによりもGOP確保を念頭に発想を切り替えることだ。そのスタートが社員定数の見直しでもある。