「儲けるための旅館経営」 その58
常識に「?」を呈し柔軟発想を

Press release
  2010.11.06/観光経済新聞
  社員定数の見直しを提唱する際に、いわゆる常識に疑問を抱いた。若干横道にそれるが、常識を考えてみたい。一般に常識とは、専門的知識でない一般的知識とともに理解力、判断力、思慮分別などを指す。一方、どの分野でも専門領域の常識があり、旅館業にも「旅館の常識」と言った観点がある。旅館業に携わる業界人に必要な専門知識やそれに裏打ちされた理解力、判断力、思慮分別と言うことになる。これらは、永年にわたる経験の積み重ねによって培われたものであり、それに否やを唱えるつもりは毛頭ない。だが、常識は時代とともに変化すると捉えることも、常識を考える上での常識だ。

禅問答のような書き出しになってしまったが、一例をあげてみよう。「旅館にシーズン波動がある」と言う実態は、まぎれもない事実だ。これは「旅館の常識」とあえて特定しなくても、社会一般でもゴールデンウィークや夏冬の長期休暇の時期には人出が多く、旅館も混み合うと広く認識されている。その事象を「シーズン波動」の言葉で認識しているか否かは問題でない。実感としてその時期は「混み合う」と理解し判断できていることから、事象に対する一般的な常識と言っていいだろう。

また、市場経済の下では、需要と供給によって価格も変動するのが常で、その意味ではオンシーズンの宿泊料金は割高で、オフシーズンは安いのも常識化していた。ここで「常識化していた」と過去形にしたのには理由がある。その常識が崩れ始めているからだ。

ひと昔前までの消費者は、新聞や雑誌広告などで価格を比較していた。バブル経済崩壊後の価格破壊では、インパクトのある価格設定を行い、それらを広告媒体を通して訴求することで、集客効果を期待することができた。また、それ以前の消費者は、旅行業者の店頭を回ってパンフレットを集め、同様の価格比較や店頭での相談を行っていた。発マーケットに強い旅行業者へ旅館の依存度が高かったのも、当時の背景を考えれば当然の帰結だったといえる。

ところが、インターネットの普及した最近では、消費者が見たいとき(旅行への欲求が芽生えたとき)に、価格の比較サイトで予算にあった宿泊先を探すことが可能になった。少なくともネットユーザーの中では、それによって常識が変わってきた。極論すれば、かつては「混雑する時期で割高」であった常識が、同じ時期でも「探せば安い料金がある」と変化してきたわけだ。同時に、選択肢の中で価格を優先させるユーザーが求める旅館は、名旅館であることも二義的条件に変わってきた感が否めない。結果として「あの旅館でこの料金」と言った状況さえ、旅館側に生じさせてきた。こうした状況は、市場が価格を牽引する形と言っていいだろう。

そこで、改めて旅館の常識を検証する必要性を感じる。前述のシーズン波動にかかわる旅館の常識では、その波動が「どうにもならない」と認めることが根底にあった。だが、果たしてその常識がすべてに当てはまるかどうか、と疑問を呈したい。

これに対しては、即座に反論が出るだろう。「旅館の力で旅行時期の分散化は図れない」あるいは「オフシーズン対策の工夫で平準化に努めてきたが限界はある」ほかさまざまな答えが想定できる。確かに、シーズン波動を旅館の力だけで変えることは、至難を通り越して不可能に近い。前段で疑問を呈したのは、そうした対外的な波動の解消策を云々してのことではない。シーズン波動を前提にした内へ向けるべき運営手法までを、同じ土俵の上で捉えて「どうにもならない」と諦めてきたのではないか。そのことへの疑問だ。

もちろん、運営面で繁忙期には可能な限りパートを雇用し、閑散期に減員するなどの対応は確かにどこの旅館でも行ってきた。だが、雇用に関連する条件が近年は変わっており、 従来通りの運営手法では今後が危ういと考えるべきだろう。

  そこに、常識の変化がある。柔軟な発想で常識を見直すのが、社員定数の見直しによるGOP向上でもある。