これまで、社員定数の見直しに向けてケーススタディを試みてきた(第48〜52回)。これとは別の角度から改めて検証を加えてみよう。サンプルは平均客単価が1万9000円だった旅館だ。「だった」としたのは、今夏(8月)の単価が2000円ダウンしたことを踏まえている。注視しなければならない点は、すでに価格の二極化は顕著になっていたが、そうした中で低い価格帯へのシフト圧力が一段と強まったことにある。
昨年までの消費者は、二極化した価格帯の中で低単価が売り切れてしまえば、多少の「いやいや感」があっても高単価を買っていた。今夏の同旅館では、そうした消費パターンがみられなくなった。高ければ泊らないと言うシビアな状況だ。また、同館に限らず旅館の価格に対する購買意識が、1万5000円程度で頭打ちになったと推測できる。しかも、これは比較的高価格帯の旅館での数字であって、これまで1万5000円前後が平均客単価だった旅館では、1万円がシーリングと言えそうな状況になっている。
こうした現在の消費性向に照らすと、1万円前後の商品開発が急務と言える。これに対して多くのオーナーから「そんなことは実施済みだ」の答えが返ってくるが、本シリーズでも再三指摘を続けているように、肝心なことはその価格帯で儲けが出ているか否かだ。客数を稼ぐだけでは意味がないし、薄利多売といっても稼働率が100%を超えることは絶対にあり得ない。80室の旅館で1日に100室の販売ができないのは、誰もが分かっている。そうなると、GOPをベースにした価格施策が必要となる。例えば、1万円で販売してGOP5%の商品では、価格施策と言うことができない。最低でも15%のGOPを念頭に据えた価格施策でなければ、将来の経営ビジョンも何も描けない。
先へ進む前に現状を簡単に整理しておこう。単価と客数の拡大が難しい状況下では、経営コストの中で大きなウエートを占める人件費の見直しが急務だと言うこと。筆者は、かつて構造改革の1手法として業務内容を徹底的に解析し、パートで可能な業務について積極的なパート化を推奨してきた。しかし、経営環境がここまで厳しくなると、パートや外国人研修生の採用では、もはや乗り切れない状況に至っている。賃金や就労条件は、10年前に比べて大きく変わった(中国人研修生は、今後の人員計画で除外しなければならない現実問題もある)。
また、10年前に今日のネット社会を想定した人間は決して多くない。百歩譲っても、消費者が価格を先導するような状況が、10年後の現在に発現することなど想定外だったはずだ。ところが今日では、ウェブ上に価格の比較サイトが多数出現し、その情報によって購入の意思決定が大きく左右されている。また、こうしたサイトだけでなく、リアルタイムな評価と書き込み(口コミも)も消費決定に影響を及ぼしている。かつて、旅行業者のアンケート点数が評価を判断する拠りどころとなっていたが、今日ではネット上の評価がそれに代わりつつある。
この現状は看過できないし、現実的な対応が迫られている。しかし、消費者が先導する価格の流れに抗うことは、個々の旅館で対応できる範囲を超えている。単価と客数の拡大を望めない現状を乗り切るには、与えられた経営環境を前提条件とした当面の施策が必要となる。
それが、社員定数の見直しにほかならない。クオリティを維持できるミニマムの社員数を見定め、可能な限り素早く、新たな人員構成に移行することだ。それには運営手法を抜本的に改編しなければならない。従来のような型どおりの人員運営では、何の意味もない。旅館ではオン・オフ日の必要人員が大きく変わるからだ。
オン日には従来の人数が必要になり、それを削減してしまえばクオリティが維持できなくなる。結果として、
クオリティに見合った価格帯への価格引き下げとなり、マイナスのスパイラルに陥ってしまう。ゆえに、社員定数の見直しと真剣に取り組む必要性が、そこにある。 |