「儲けるための旅館経営」 その55
目標を掲げて社員定数を是正

Press release
  2010.10.9/観光経済新聞


 これまでに述べてきた社員定数の是正は、適正な対応によって当面の経営課題であるGOP5%アップを図ることが目的だ。また、社員定数の是正とは、いわば過剰な人員構成を適正人員に再編することであり、結果だけを捉えれば人員削減にほかならない。だが、闇雲に人員を削減することは、かつてのリストラ旋風と何ら変わらず、現状のクオリティが維持できなくなる。ひいては、クオリティ低下で単価を引き下げ、それに対応するためのさらなる人員削減につながり、負のスパイラルに陥ってしまう。こうした先例を筆者は数多くウォッチしたが、実際の旅館経営でこれだけは何としても避けなければならない。

では、どうすることが適正な対応なのか。これまで5軒のケーススタディ(第4852回)では、それぞれの旅館について現状の部門別人員数を基に、理論値と照らし合わせて人員数を算出した。そこから、当面の改善点を見出すことができ、それを是正することでGOP5〜10%アップの道も見えた。ただし、こうした対応だけで済ませてしまえば、急場しのぎの感も否めない。改善した状況は維持されるとともに、次の段階へと絶えずステップアップを繰り返すことが本来の姿とも言える。そのためには、目標を明確にした改善計画が必要となる。また、目的に至る道程にはマイルストーンの設定も必要だ。3年先の目標に向けて計画を立てたとすれば、日々の業務結果を適切に記録し、半年ごとに全体の進捗状況をチェックする「PDCAサイクル」の発想でもある。

PDCAとは、P(Plan=計画)、D(Do=実行)、C(Check=点検)、A(Act=改善)の展開だ。つまり、従来の実績や将来の予測などをもとに計画を策定し、その計画に沿って実際の業務を展開するとともに、一定の期間を経た時点で計画通りか否かを点検(確認)して、計画に沿っていない部分を処置(改善)しながら次のステップへと発展させる。

さて、こうした具体的展開の一端を紹介してみよう。まず、着目すべき点は3年後の社員構成における男女比が挙げられる。すでに述べてきたように、旅館の日常業務では女性に負う部分が大きい。ところが、あるオーナーの言葉を借りれば、「うちの事務所を眺めたときに接客のできる人間などいない」とする現実が多くの旅館で見てとれる。また、60歳の男性事務職員を不適切と断じることは問題だが、少なくとも「とてもじゃないが接客には回せない」との言葉にも頷ける。

こうした実態の背後には、「従来の発想では各部署の頭数を揃えるのが主で、男女比率や作業力量の観点に欠けていた。採用の段階で事務、接客、フロントと言った部署別配置を前提に必要な人数を雇ってきた」などの現実がある(第47回「男女比率や作業力量の見直し」参照)。なぜ、これが問題かと言えば、社員定数の是正でカギを握るオールラウンド化を進めるためだ。事務職員も接客に当たるオールラウンド化によって、現状で100人の社員定数を80人で賄うことは可能だが(下図参照)、その場合に男女比が問題となる。
 一方、現実の場面に照らせば、会社の論理だけで即座に改編するのは難しい。「3年後の社員定数」と記した理由もそこにある。 オールラウンド化へ向けて、男女比を踏まえた人員計画を、現時点で策定するとともに、目標年度までの期間中に、再編の可能な部分は逐次実行する。 それには、ケーススタディで示してきた方策がある。キーワードは、社員個々に「要検討」「再編」を当てはめた精査が第一歩だ。