前回、ケーススタディを総括する前段として背景を記した。肝心なことは、ニーズの多様化と言われて久しいが、現在の消費者は自身のニーズを描ききれていない。かつて、旅先での感動が旅行誘発の大きな要因になっていた。そのために「あそこへ行って、あの旅館に泊まりたい」との願望が誘発要素となり、その思い描きに応じるのが受け入れ側としてのニーズへの対応と理解されていた。したがって描きは各人各様であり、ニーズが多様化していると受けとめた。ところが、現在は多くの消費者が「はじめに価格ありき」の発想に変わってきた。インターネットの価格比較サイトをはじめ、安売り広告の氾濫で「ニーズ=価格」と受けとめられる様相さえある。
だが、そうした状況をとやかく論じたところではじまらない。要は、どのような状況であっても「利益を出すのが企業」の使命にほかならない。前回、7000円でも「これだけの3要素が提供できる」と内部を再構築する必要性を述べたのは、価格志向と安易に妥協する意味ではない。低価格であっても可能な限り高品質を目指し、しかも経営の負荷を低減することが、今日的な個性化であり差別化ということだ。
さて、ケーススタディの内容を改めて検証してみよう。ケース1は、いわば独自路線で比較的高単価を維持している。GOP10%は、社員定数を改善することで、5%以上の上積みが可能だ。これに対してケース3は、客室数がケース1よりも6割近く多いにもかかわらず、年商は同額で、運営に問題があるのは数字の面からみてとれる。GOPもサンプル中で最も低かった。こうした状況を引き起こした大きな要因は、人件費関連の総額が肥大化していたこと。つまり、社員定数が経営面でのバランスを損なっていた。
総売上に対するコストバランスは、@人件費A原料費B消耗品や備品の補充などを合算して50%以内に収める必要がある。内訳は、@とA+Bの比率が28対22を平均的といえる。この50%は平均客単価とも関連するものであり、1万5000円をベースラインに前後2500円程度の範囲までで、それ以上でも以下でも50%は下回る(第44回「3階層運営でコスト50%図る」参照)。
したがって、平均客単価が1万1000円だったケース3は、47〜48%が妥当な範囲にもかかわらず15〜16%も上回っており、それらがコストバランスを崩していた。その大部分は過剰な人件費だった。これに対して客室数でほぼ同規模のケース2は、平均客単価の高さもあって、年商でケース3の2倍以上に達している。しかし、GOPは健全経営に欠かせな15%を割り込んでいた。ここでも要因は人件費が大きくかかわっている。
ケース2に対してケース4は、客室規模が25%ほど大きいが、年商はやや下回っている。平均客単価の違いが大きな要素の1つだが、
GOPは15%を弾き出している。サンプル中でコストバランスが50%に収まっていたのは同館だけだった。 また、平均客単価がケース4と同じのケース5は、年商で下回っており、当然ながらGOPも伸び悩んでいる。
これらを通していえることは、コストバランス50%の確立が重要であり、バランスを崩す最大要因が人件費だということ。前述した「7000円でもこれだけの〜」が今日的な差別化の大ファクターであり、
経営負荷を最小限にとどめながら実現するには、人件費にメスを入れる必要がある。その場合に単なるリストラでなく「社員定数の発想が不可避だ」と、改めて提言したい。 |