「儲けるための旅館経営」 その52
運営システム全般の改革必要

Press release
  2010.9.18/観光経済新聞

◆検証5

ケーススタディ5回目の旅館は、客室規模127室、平均客単価1万2000円、年商8億円でGOPが9%。現在の社員数は77人(内訳は下表参照)となっている。

同館のコストバランスは、平均客単価が1万2000円であることから、売上の50%弱が目安になる(便宜上50%換算)。50%の内訳はこれまでと同様に、人件費を28%とすると原材料と備品などが22%となる。これに対して現状は、社員77人と外注費を加えた人件費関連総額が、およそ2億6000万円強で総売上の33%に達しており、コストバランスの面で5%の超過。ちなみに外注は、客室清掃とパブリック清掃、食器洗浄(パート約50人)などで年間で4500万円を計上している。

◎GOP9%の背景

食事提供の形態は、夕食は個人客の場合が食事処、団体客が宴会場、朝食は個人が食事処、団体が宴会場となっている。個人・団体の夕食の料飲率(料理提供にかかわる総掛かりコスト)は、平均単価の1万2000円と提供形態に照らすと、やや過剰気味といえそうだ。

また、平均客単価と稼働率の両面で厳しい状況に置かれている。したがって、GOPは2ケタにあと一歩の9%にとどまる。

◎社員定数の観点

オールラウンド化と3階層運営による社員定数は、@事務系+フロント・ラウンジA客室(レストランを含む)Bその他(厨房+後方部門+設備など)の比率が、「3:3:4」になる基本形に対して、同館の場合は、概算で「4:2:4」の構成比となっている。したがって@+A対Bの関係は「6:4」となり、大枠で捉えると基本形の範囲に収まる。客室(A)の16人は、これまでの4例に比べて最も少なく、逆に客室規模が最も大きいこと勘案すると、相応にスリム化された運営が推測できる。

◎GOPアップへ向けて

同館のケースでは、総論的に捉えればコストバランスの人件費関連総額5%超の解消が、これまでの事例と同様に優先課題となる。そのためには、社員構成比の3ブロックのうち@事務部門16人とフロント16人の32人を22体勢(現状比70%)に圧縮するとともに、外注費(パート約50人)を見直すことでGOPの向上は図れる。ただし、現状の社員数がスリム化されているために、上記の対応策だけでGOPを飛躍的に伸ばすのは難しい。低迷している平均客単価と稼働率の改善も、GOP向上には欠かせない。
 したがって、オールラウンド化や3階層運営に取り組むとともに、配膳システムをはじめ館内の運営システムのすべてに対して、改めて見直す必要がある。大掛かりな運営変更で「小さなGOPアップ」を積み重ね、その総和が大きなGOPアップにつながる大局的な取り組みが求められるケースだ。