「求める理想は実現する」その115
満足度につらなる「料飲比率」
Press release
  2008.10.25/観光経済新聞

 価格の2極化に関連することとして想起できるものに「1万円」という数字がある。かつて、1万円以下での宿泊といえば、民宿やペンションなどだった。施設の一般的なハードは、当然ながら旅館より劣っている。それが旅館の優位性となって、旅館は1万円以上の客層を取り込むことができた。その1万円以上で40%近くを占めていた価格帯が1万〜1万2000円だった。ただし、この価格帯の客層は、いわゆる旅館の情緒よりも「温泉に行きたい」という欲求が選択肢の上位を占めていた。また、食事提供で部屋食や食事処などの付加要素が、1万円以上の価格に対する納得性を加えていた。
ところが、バブル崩壊後にファンドに渡った旅館は、価格を7000円台に引き下げて売り出した。客側からみると、従来は諦めていた施設が1万円以下で利用可能となった。違いは部屋食や食事処などがバイキング会場に変わったぐらいであり、むしろその価格帯の客層には、多品種を自由に好きなだけ選べることで好感視された。
これまでも度々指摘したようにバイキング形式は、銘々の膳による定食と比較して「劣る・劣らない」といった認識の仕方ではなく、食事を提供する「1つの形式」として捉える必要がある。ある旅館のオーナーは「バイキングにすると原価率が上がる」と言うが、これは認識に欠けている。例えば、朝食の原価を考えてみよう。原価が500円だとしたときに、定食もバイキングもその数字に大差がない。ところが、残飯率をみると定食が50%近くなに対して、バイキングでは遥かに下回っている。完食すれば500円だが、半分を食べ残せば原価の250円分しか腹に収まっていない。一方、バイキングでは最終的に400円分ぐらいが腹に収まっている。腹に収まった分を考えると、定食では250円分が原価の500円に相当する。この計算をバイキングにあてはめると、400円は原価を大きく上回る800円分になるわけだ。価格帯や客層にもよるが、少なくともこの客層での満足度は、バイキング方式に軍配が上がっていると見るのが妥当だろう。
また、原価が上がるとの捉え方は、バイキング形式だからという理由よりも、オペレーションそのものに問題がある。同じ原価での満足度の違い、オペレーションによる廃棄率の低減などを考慮すると「原価が上がる」との認識は是正されなければならない。
 さて、食事提供のオペレーションを考えてみよう。7000円の価格では、夕食が1500円、朝食が700円とみることができる。その中で材料費は夕食が800円、朝食が350円ぐらいで、残りが調理やサービスの人件費となる。これを合計した料飲オペレーションは2300円で、7000円に対して30%強を占める。
 この料飲比率(料理原価=@料費A厨房人件費B食器洗浄C料理輸送D接客人件費――などの諸コストを包含したもの)は、すでに述べたとおりGOPを確保する上で50%が適正としたが(第113回参照)、7000円の価格ではさらに20%近くも下回っている。これは5000円の室料を確保するためだ。つまり、料飲比率は販売価格によって可変するわけであり、売価が下がればそれに連動して比率を下げていかないと、適正な室料が確保できなくなる。不動産業として成り立たなくなってくる。
 ちなみに、1万2000円台の場合、団体の少ない夏期などのコマ客対応としてバイキング形式をとるケースがある。その時の料飲オペレーションは6000円ぐらいで、材料費は夕食が1800円前後、朝食が600円前後だ。販売価格に対して20%程度の原材料ということになる。売価に対して料飲比率を50%に収めないと室料が出てこない。この料飲比率は、売価が高くなっても同じというわけではない。高額になれば55%程度を上限にスライドさせることも考えなくてはならない。そこには、価格にみあったサービス付加が求められるからだ。ただし、従来のような勘や経験則ではなく、数字的な裏付けが必要であり、旅館版ユニフォームシステムの導入が待たれるところだ。

(つづく)

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