社員定数のケーススタディに向けたサンプルデータの整理過程で、次のことが明らかになった。GOPの高い旅館は、稼働率も高い――至極当然のことだが、当然であるがゆえに稼働率至上に陥っている現実も少なくない。価格志向への対応策として平均単価の引き下げが恒常化し、それを補う意味から稼働率を稼ぎ、帳尻を合わそうとする傾向がそれだ。結果だけならば、1万円で稼働率70%と7000円で稼働率100%の額面数字に変わりない。だが、6000円で稼働率117%の計算式はできても、実際に稼働率が100%を超えることはあり得ない。それが、稼働率至上の限界性といえる。もちろん、単価が上げられればGOPはアップするが、それも不可能に近い。そうした状況下では、コスト圧縮でGOPを稼ぎ出すしかない。そこで、オールラウンド化や3階層運営のオペレーションが必要になる。社員定数の見直しとは、そうした発想を集約した表現と言ってもいい。
さて、旅館の社員構成で改めて問い直すべきものとして「男女比率」の問題がある。3階層オペレーションを構築するには(第42回「曜日波動に対し3階層の運営」参照)、接客オールラウンド、館内運営オールラウンド、事務オールラウンドなど社員の層区分が欠かせない。こうした観点を提案すると「うちの事務所を眺めたときに接客のできる人間などいない」と言う答えを返したオーナーがいた。確かに、事務職に含まれる用度係は60歳の男性で「とてもじゃないが接客には回せない」と言う話も頷ける。また、別のオーナーは「フロントは男性が大半で食事などの接客に不向きだ」と言う。
なぜ、こうした実情になったのかを顧みて、次の手を打つ必要がある。まず、現状に至った背景をみると、従来の発想では各部署の頭数を揃えるのが主で、男女比率や作業力量の観点に欠けていた。採用の段階で事務、接客、フロントと言った部署別配置を前提に必要な人数を雇ってきた。だが、バブル崩壊から現在に至る経営指数をみると、客単価は40%ほど低下しているにもかかわらず、数合わせの状況はバブル時代にフィックスされている。客単価は下がったが施設規模が変わったわけではなく、集客人数も前述の単価低下分を稼働率でカバーしているために、結果として社員の頭数はバブル時代と同じになっている。
また、社員定員数の圧縮や「忙しい時の応援は実施している」などの答えも返ってくるが、それらは「オールラウンドもどき」でヘルプの域を出ていない。なぜならば、運営オペレーションが確立されておらず、要員として明確な位置付けが行われていないからだ。これでは、頭数を減らせばサービス内容も低下する構図から逃れることができない。
オールラウンド化では、前回の稿で述べたように「サービス業としての旅館」に求められる基礎素養を平準化しておく必要がある。作業力量の面では、海兵隊方式による一定期間の接客サービス経験の蓄積をあげた。また、男女比率については、雇用機会均等や男女差別の問題と、現実的な旅館サービスの内容を同じ土俵で議論するのは無意味だと筆者は思う。やはり、旅館での接客は女性をメインに据えるのが現実的だが、部署別の頭数発想に基づく要員体勢では、前述の「とてもじゃないが接客には回せない」のが実態だ。
これに対し実際のある旅館では、ワーカーレベルの要員を、男女比率や作業力量を勘案した3カ年計画での入れ替えに取り組んでいる(右図参照、第45回再掲)。背景の1つには中国人研修生の問題がある。労働条件の規定や人件費そのものの見直しなどがからみ合っている。単純に言えば、使えなくなる状況になってきた。男女比率や作業力量を前提にした再構築は、この問題の解決にもつながっている。
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