経営状況を端的に示すGOPが低下してきた大きな理由は、価格志向の強まりや旅行形態の変化(団体→コマ)といった外的要因のほかに、度々指摘してきた内的要因としての接客運営手法の立ち遅れがある。運営手法が、外的要因の変化に対応できていないわけだ。今回は、この点を売上高とコストのバランスから考えてみる。
結論から言えば、人件費と原材料、消耗品や備品の補充などを含むコストは、売上高の50%以内の範囲で賄う必要がある。言い換えれば、これらのコストを50%以内で収めるためには、いったい何をすべきかを真剣に問うことが欠かせない。その第一歩が外的要因の変化に合わせた運営手法の変革だといえる。ところが多くの旅館の現実は、年間100日程度のオン日を自前の接客係だけで対応しようとする従前の発想で、社員やパートを抱え込んでいる。オン日以外では、そうした要員は余剰人員にほかならない。しかし、それをカットすれば、稼げる日のチャンスを十分に生かせないジレンマに陥ってしまう。結果として、余剰人員のカットもできず、GOPの低下も防げない現実の中で悶々としている。
旅館のオーナーであるA氏が、経営コンサルタントの講演を聞いた後の印象を語った。「売上を上げて経費を下げれば、キャッシュフローが生まれる、と言う。だが、そんなことは言われなくてもわかっている。問題は、どうすればそれが実現できるかを聞きたいのだ」と。
これには後日談がある。同じ講演を聞いた他館の取り組み結果を伝え聞いたと言う。それによれば、集客増に向けて宣伝広告費を注ぎ込んだが、効果は予想を遥かに下回った。接客面で他館との差別化を図ってみたが実効には結びつかず、ハード面の手直しも投資による負の面だけで単価アップへの貢献はなかった。
A氏が聞きこんだこの話は、そうした手法が「悲惨な結果を生む」という教訓にすらならない、と筆者は思う。なぜならば、そうした手を打てる余力があった旅館のケースであり、現実は余力のない旅館の方が圧倒的に多いからだ。
現下の状況で売上をV字回復することは難しい。だが、経費を下げることでGOPを上げることは可能だ。右肩上がりの時代ならば消極的と言える対応だが、肝心なことはGOPがどれだけあがっているかであって、見た目の額面の多寡ではない。
そうした観点から、実際に調査したある旅館のケースを紹介してみよう。客室規模は50室ほどで、年商が約4億円、社員数が50人を少し上回っている。そして、GOPは6%だった。客層や価格帯に照らして社員定数をシミュレーションすると、前回までに示してきたオールラウンド化による3階層運営では、35人でも十分に賄える結果が出た。これによる人件費の低減効果は約4000万円であり、その分を年商に加味するとGOPは一気に16%に跳ね上がる。
さて、冒頭で売上高の50%以内と述べた部分を細分化すると、原材料が15%、人件費が28%、消耗品と備品の補充で7%と言った内訳がおおよその目安となる。もちろん、平均の客単価によって総枠の50%は変化し、内訳もそれにスライドした比率になる(右図「価格帯とコストのバランス」)。
こうした目安(指標)に照らして自館の現状を捉え直すことを、まず試してほしいと思っている。それが見いだせれば、現状の打開策も具体的に見えてくる。 |