労働環境が変化してきた昨今、短時間労働者が不足することにより、長時間労働者を雇用せざるを得ない。今回は、この観点から社員定数化を考えてみたい。
年間の大きなサイクルとしてオン・ショルダー・オフの各シーズン波動が、年間の3分の1程度ずつで明確であれば、長時間労働による年間雇用をした場合でも、変形労働時間制を採用することで、労働時間を調整できる。例えば、オン期は週休1日、ショルダー期は週休2日、オフ期は週休3日といった契約条件で労働時間を「貸し借り」する形だ。
ただし、その前提として年間の稼働率の問題がある。年間のオン・ショルダー・オフの各シーズンをトータルで平均化したときに、稼働率が70%程度であれば、変形労働時間を採用することで帳尻合わせも可能だが、現実には平均稼働率が65%、60%と低下の一途にあり、50%程度の旅館も急増してきた。したがって、変形労働時間の考え方だけでは成り立たなくなってきた。
その背景には、かつて言われていた「団体からコマへの変化」だけでなく、ETC効果の負の面でもある曜日波動の拡大もある(右図「シーズン波動から曜日波動への変化」再掲)。そこで、前回の稿で指摘した「3階層運営」によって、必要な社員定数を弾き出し、それをベースに年間を通した長時間労働者の雇用を考える。言葉を換えれば、都合のいい時間だけ雇えるパートの発想を捨てて(現実問題として難しくなっている)、新たに社員化を図る理由がそこにある。ただし、現状のパートを全員社員にするというような乱暴な話でははい。
例えば、前回例示した館内運営(客室清掃をはじめとするバックヤード部門の作業要員)をみると、100室前後の規模の旅館では、40人程度のパートを運用している。当然ながら特定の時間帯(9時〜15時)に40人全員が出社しているわけではない。それらを踏まえたパートの社員化では、長時間労働が可能であり、さらにオールラウンド形態の業務に対応できる人間でなければならない。そして、社員化した要員をシステム発想の下で「接客必要人数」に加えると言うことだ。
しかし、そうしたパートの社員化は、それでけを捉えると人件費が増えたようにみえるが、これは表面的な短絡でしかない。例えば、夜の宴会時間だけパートを雇用したと仮定すれば(下図「館内運営モデル」参照)、夜間のパート賃金として割増も必要になる。ところが、それを社員でこなせられれば、そうした負担は軽減される。前述の「労働時間の貸し借り」で調整できるわけだ。
また、館内運営のオールラウンド化によって朝食、セッティング、夕食での接客要員人数にもプラスに働く。大局的に捉えれば、ES(従業員満足)の向上も図ることができ、労働環境と雇用環境の変化にも貢献する前向きな施策になる。
稼働率が低下し、曜日波動が大きくなってきた現在、こうしたシステム発想が欠かせない。また、運営のシステム化とは、要員の動きを適正にマネジメントすることでもある。そのマネジメント能力は、自然発生的に生まれるものではなく、ある時点で経営者がシステム化を決断し、従来の運営手法に大ナタを振り下ろす以外に、抜本的な改革の決め手はないといえる。
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