「儲けるための旅館経営」 その41
消費者意識を踏まえ運営改革

Press release
  2010.6.26/観光経済新聞

本シリーズでは、「どこで儲けて、どこで損をしているの
か」と言った観点からさまざまなケースを捉えてきた。一見して活況を呈しているような満館日であっても、必要接客要員数と対比させてみると、実は総売上対総経費で儲けが出ていないケースが数多くの実例で証明された。つまり、「儲け=GOP」の確保できていないケースが、あまりにも多いと言うことだ。

そこで、「必要接客要員数」さらに進めて「社員定数」と言った新たな概念を提起してきたわけだが、そうした新規の概念は、ややもすると従来の運営手法と馴染み難い一面もある。実際に旅館経営者と話していると、「理屈として理解できる」と言った反応は、まだまだ可能性を残していると前向きに評価できるが、多くの場合「それはムリだ」と言う否定が先に来る。

言い換えれば、現状認識と経営認識のギャップが大きい。これまでの業界では「嵐の時は首をすくめ、通過を待つ」と言った処世観があり、景気循環説が通用した時代は、それで嵐をやりすごすこともできた。これに対して昨今は、「一過性の景況ではなく、これを恒常とみなした対応が必要だ」と捉える経営者が増えているが、そうした認識の仕方にも背景として従前の処世観が見え隠れしているのが否めない。

例えば、価格志向の高まりで「低価格化」が顕著になっているのは周知の事実だ。背景にはは、かつての国民意識であった「一億総中流意識」の崩壊がある。巷には「下層意識」と言った言葉もあるように、消費意識が大きく転換してきた。こうした実体経済の変化は、感覚的にもあるいは経営数字の変化からも認識しているのだが、それへの対応は表面的か成り行き任せ(変化への安易な迎合)に終始している。

そうした価格帯の変化をイメージとして捉えた時(右上図)、リンゴを食べた後の芯のような形をどう認識するかにもつながる。表象的にはリンゴの美味しい部分を他のレジャー産業に食べられた結果なのか否か、と言った捉え方もできる。それならば、食べられる前にこちらが食べる工夫をすればいい。古い言い方だが「パイの奪い合い」発想だ。ところが、芯の内実をみると、他に食べられたのではなく、構造的な変化とみるべきだ。いわゆる二極化にほかならない。

 そうした構造的な変化は、繁閑期のサイクルにも表れている。「シーズン波動から曜日波動への変化(下図)」と捉えたとき、従来の大きな波動だけでは対処できない実体が如実に表れている。平均値を基に対処するような方法では、もはや解決の道は見出せない。

 新たな概念として「社員定数」を基軸とした運営手法の再構築が必要となる。つまり、ここに示した象徴的な2つの図は、従来の処世観をベースにした発想とは相いれない要素があまりにも多すぎる。極論すれば「損をする」要素を解決するには、実体を改めて認識し直すとともに、運営の抜本的な組み換えが求められている。その認識が「儲けるため」の第一歩であり、次回からそのポイントを述べたい。