前号では品揃えのうち食事処について述べたが、今回はもう1つの「客室タイプでの品揃え」について考えてみたい。とりわけ大型旅館では、客室の品揃えが重要な要素になる。旅館では、これまでも特別室をはじめさまざまなタイプの客室を提供してきた。そのために「ホテルのような画一ではない」と言い、それが多様な販売価格を生み出す一因にもなっていた。だが、果たしてそうなのかと言う疑問もある。
例えば、ある旅館では、大別すると7タイプ(専有面積などで詳細に分ければ30タイプ)ほどの客室がある。その中の1つは、特定のフロア全体が郷土色を全面に打ち出しており、部屋もそれに準じた意匠が施されている。客室個々の広さは、これまで「特別室」とされていた部屋と比べた場合に、決して広いとは言えない。だが、まさしく個性的であり、その土地を訪れた実感と満足を十分に味あわせてくれる。
つまり、これまでの「12.5畳+4畳」とか「10畳」と言った広さによるタイプ分けではなく、部屋自体を個性化させる品揃えといえる。また、こうした品揃えは、結果として自館の「客層の品揃え」と言った意味にもつながる。客層の品揃えとは、これまで再三指摘してきた「価格セグメント」にほかならない。
こうした「品揃え」は、前号で指摘した食事処の品揃えとオペレーションにもリンクする。オペレーションの対象を外れたセグメントは、決して妥当な選択ではない。例えば、最近の傾向をみると、平均客単価が20000円の旅館では、団体の14000円以下は受けないといった形がみてとれる。さらに、14000円の団体は受けるが、どうしても売上高が稼げなければ10000円でも受ける。いわば、グロスで5%ぐらいの不足している売上げ分を、それによって調整するわけであり、これによる平均客単価への影響は数百円の違いとなる。これに対して、高額客を1人獲得すると、そうした団体客の5人分がリカバリーできる。この辺りがGOPを念頭に置いたときに悩ましいところだ。
問題は、前述した食事処の品揃えとオペレーションが確立されていれば、それぞれの価格に対応できるが、それがないとGOPが確保できないことになる。14000円のオペレーションで10000円に対応すれば、売上の額面は帳尻合わせに近づくとしても、GOPは消し飛んでしまう。そこで、客層の品揃えが大きな意味をもってくる。旅館の経営は、最終的に客単価と絶対売上高で決まる。客単価を下げることは、経営的に致命的な痛手にもなる。
単価と売上の関係は、装置産業の宿命として飲食店の事例をとりあげた(111回)。キャパシティ(平米数、席数=旅館なら収容規模)とそれに対する来店客数、そして設定単価によってすべてが決まると述べた。ファーストフード、居酒屋、割烹、料亭などは、それぞれの経営形態で「客層の品揃え」をして、いずれも経営が成り立っている。例えば、単価4000円の居酒屋と15000円の料亭で粗利を単純に比較すると、その差は大きい(下表)。ゆえに、料亭の方が儲かる――と短絡する人間は少ないはずだ。問題はGOPが出ているか否かだ。ファーストフード店で単価数千円の品はないし、料亭で数百円の料理もない。客の側が使い分けているわけだが、店側からみれば「客層の品揃え」になっている。そして、それぞれの業態に応じたオペレーションが確立している。
ひるがえって旅館は、4000円から15000円の飲食店を、1館で扱っているのに等しい。品揃えとオペレーションの問われる理由が、そこにもある。
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