前回の視点を、別の角度から捉えてみよう。旅館の経営状況をとりあげたテレビの特番では、年間100日前後の繁忙日で稼ぎ、その稼ぎで残りの260余日を補てんしているのが現状だと報じていた。結果として、繁忙期の宿泊料金が高くなり、加えて交通機関も混雑すると捉えているようだ。そこで、ゴールデンウィークを地域ごとに分散化し、集中を緩和すれば旅行機会が増加するという短絡した発想が、あたかも効果的であるかのごとく論じられていた。
年間を通した旅行日の平準化は、完全に履行できるのならば、確かに大きなメリットもあるが、現状の経営方式(経営発想)のまま中途半端に進められると、むしろ弊害の方が大きいかもしれない。例えば、年間を1つの塊として捉えた100日の集中日は、合計した数字としてあてはまるが、日々の実情に照らしてみると、ゴールデンウィークや秋の行楽シーズン、盆暮れの連続休日などのほか、50余日の土曜日がある。したがって、オン期とショルダー期を合計すると、年間で200日ぐらいが数えられ、まったくのオフ日は150日程度ということになる。
前置きが長くなったが、完全平準化が非現実的である以上、ここで問題とすべきは、従来の季節波動の概念を改めて見直すことだ。端的にいえば、季節波動は大きなサイクルであり、オン期の中に多少の閑散日が紛れ込んでも、前述の「100日対260余日の方式」で、それらはある程度吸収できる。例えば、接客要員数の確保と人件費の関係もその1つだ。オン期が一定期間継続すると想定できれば、不足する要員をパートで補うことも可能だろう。地域や立地条件によっても異なるが、7月からオン期が始まって、秋の行楽シーズンまでの間に若干の閑散日があったとしても、7〜10月の4カ月間、あるいは年末年始まで延長すれば、半年程度の長期設定でパートを雇用できる。パート採用に一定の計画性をもたすことができ、オフ日も社員の休日にあてるなどで吸収も可能だ。だが、パート雇用にも限界があるし、周辺地域からパートを集められないような立地条件の場合もある。
パート雇用だけでは対処が難しくなってきた大きな理由の1つは、従来のシーズン波動だけで捉えきれない「曜日波動」が顕著になってきたことがあげられる。曜日によるこうした波動への対応として、社員を中心にした「社員定数」の発想が、どうしても必要になってきたと筆者は考えている。
その前提として年間を通じた日々の宿泊人数、客単価、接客要員数、料飲サービス率(材料費、厨房や接客コストなど料理提供にかかわるすべてのコストから算出)などの計数管理が必要になる。これをしていかないと、従前の慣習がカセとなることや、経験則に基づく勘に頼ることになってしまう。例えば、GOPを出すために「人員を3割削減」と言った場合、「それでは業務に支障をきたし、CSもダウンする」との答えが大半の経営者から返ってくる。
果たしてそうなのか。例えば、オン日に30人の接客要員が必要なケースを想定して、単純にシミュレーションしてみよう(右図)。すでに指摘してきたように、タテ割り運営をオールラウンド化することで、
3人必要な接客要員が8人でも賄える計算になる。こうした方式を場当たりではなく、年間の運営方式として構築することで、GOP確保は可能だ。 |