「儲けるための旅館経営」 その37
社員定数と必要接待要員とは

Press release
  2010.5.29/観光経済新聞

バブルの崩壊後、大半の旅館で売上が2〜3割前後減少している。当然ながら20%を超えていたGOPも大幅に目減りしている。それなりの業績をあげている500軒程度の旅館の実態を分析してみると、GOP15%以上を上げている旅館は、およそ3割程度にとどまる。他の7割は15%以下のGOPに甘んじている。加えて、08年9月のリーマンショックによって、総売上や単価などで平均1割以上減の影響を受けた。さらに、多くの旅館の状況を聴取してみると、今年はその上に5%程度の減少を見込んでいる声が大勢を占めている。そうした状況を勘案すると、GOP15%以上を上げていた旅館の3分の2は、それに届かない予想がみえてくる。言い換えれば、500軒中の1割程度しか現状を維持できないことになる。

厳しい状況を並べ立てるのは、悲観論を是認しているようで心苦しいのだが、現実を直視することも、一方では避けて通れない事実でもある。また、リーマンショックだけでなく、旅館は外的な要因に大きく左右される。その1つに道路行政(とりわけ高速道路料金)がある。ETC装着車の1000円制度は、どうやら当面は継続されるようで、遠距離需要の創出では一定の効果が認められるものの、一方で割引の適用される週末集中のマイナス面も否定できない。平日に動きやすかった中高年までが、ETC割引の恩恵にあずかろうとすれば、ウィークデーと週末の定員波動がさらに大きくなる。景気の低迷と曜日波動のダブルパンチは、旅館の力だけでは解決の難しい課題として突き付けられている。

このことは、これまで指摘してきた年間100日のオン期と、客室稼働が50%を割り込むようなオフ期への対応策を、抜本的に見直す必要性を示唆している。オン期に稼いでオフ期を穴埋めする従来の構図は、もはや通用しなくなった。かつて、中間層(仮に1万2000円〜1万8000円とした場合)が大半を占めていた時代に例えるならば、高額層(2万円超)と低額層(1万円以下)の占める比率は決して大きなものでなかった。したがって、高額層の儲けを低額層に「貢ぐ構図」があっても、全体としては帳尻の合う範囲に収まっていた。

ところが今日では、小規模高額の一部旅館が盛況な一方、大多数は低額志向にシフトし、従来の中間層が大幅に減少している。いわゆる二極化が顕著に表れている。そうなると、前述の「貢ぎの構造」な、まったく成り立たなくなる。いわば、旅館内で自家処理(帳尻合わせ)のできる範囲を超えている。

 シーズン波動は、その期間が経験則から読めるために、パート常用で対処することがある程度可能だったが、曜日波動がここまで顕著になると、必要な曜日だけパートを集めるような都合のいい雇用形態は難しくなってくる。また、現実問題として、周辺地域でパートを確保できない地域があることも少なくない。

 そこで、オン期の必要人数を確保しておく「社員定数」の発想が必要となる。もちろん、この言葉をそのまま実践したのでは、人件費を賄いきれない。これは改めて説明を必要としない周知の事実だ。社員定数の基本的な考え方は、施設や厨房関係を除く「必要接待人員」にプラスαを加えた総数として割り出せる(下表参照)。表中での「+6人」「+4人」の数字は、ロビーや売店担当、フロントや電話番などだ。

こうした人員構成では、「必要接待人員」とは何であり、その人数の内訳をどのように理解し、実際の運営に反映させるかである。結論をいえば、いわゆる接待係だけでなく、事務部門やフロントなども含むオールラウンド要員の総数が、必要接待人員の算出背景にあると理解するのが第一歩だ。