「儲けるための旅館経営」 その36
社員オールラウンド化が急務

Press release
  2010.5.22/観光経済新聞

前回は、実勢定員(年間の総宿泊人数を営業日と販売可能客室数で割った1室平均の宿泊定員)をベースに、社員総数(定数)との関係の一端を示した。稼働率が100%といった数字も、実勢定員では容易にありえる。かつての経営数値では「客室稼働率」と言った捉え方に近似なものだが、その数値はが十分に生かされてこなかった。大きな理由は、お客1人に対して人件費を含む原価(総掛かりコスト)、あるいが従業員1人当たりの対客コストと言った概念が乏しかったことにありそうだ。

さて、前回の稿では実勢定員200人、接客係10人(1人で客20人対応)のシミュレーションを行い、実勢稼働率70%(年間平均)が法定基準の労働環境を順守する上で最も効率がいい点を指摘した。ただし、このシミュレーションは、GOPが1520%出ていることを条件として加える必要がある。現在のようにGOP5%アップが「至上命題」と言われる状況下では、「接客係10人態勢」そのものにメスを入れる必要がある。

そこで3032回の稿でケーススタディとした実績データを、別の角度から検証してみよう。同館の実勢定員に基づく客室収容規模は800人弱であり、それを踏まえた稼働率70%を超す日数(宿泊者550人前後)が年間で100日弱ある。

 シミュレーションのケース1は論外だが、実際にはこうした要員実体の旅館も少なくない。そうした旅館では、例えば満館で宴会食の多い日であっても、ケース2の要員態勢に変化させるだけで、2〜3割の要員減が可能だ。実際にケース3に近い転換を進めつつある旅館では、料飲サービス率(料飲率=料理提供にかかわる総掛かりコスト)を大幅に引き下げている。ケース4、5については、極めて高度な館内オペレーションを必要とするが、決して机上の空論ではない。

 ただし、接客要員1人当たりの対応客数を増やせば、従前のクオリティをどのように維持するかが、オペレーション構築で難しいところだ。コストを削減できても質まで下げてしまえば、価格志向に振り回されるマイナスのスパイラルに落ち込んでしまう。

 そこで、前回述べた「全従業員接客係」のオールラウンド態勢が不可欠となる。経営実態を細部にわたり精査把握し、社員総数(定数)を見きわめた上で、経営方針と運用の再構築が欠かせない。