ここ5回にわたって料理提供での接客コストが、料飲サービス率(料飲率)を左右している点を指摘してきた。端的に言えば、料理提供にあたって1人の接客係が何人の客対応をしているかが課題であり、宴会食いの多い月は客対応人数が少なくなり、レストラン食が多い月は対応人数が増えている実際をみてきた。とりわけ、平均の客単価が7000円から1万円ぐらいまでの範囲にある旅館では、料飲率をシビアに精査しないと、当面の課題であるGOP5%アップは難しい。
こうした実態に照らしたとき夕食の形体は、宴会食よりレストラン食の方が効率的にみて優位であることも判明したが、客側は旅館を選ぶことができるのに対して、旅館側でお客を選ぶことは現実的に難しい(小規模高額などは別)。ただし、この議論は「はじめに不可能」と思ってしまえば何の解決もできない。
また、オン・オフ期のシーズン波動や同じシーズンでも曜日による波動もある。年間で100日前後のオン日で稼ぎ、残る260余日は稼ぎを食いつぶしているとの指摘もある。しかも、オンシーズンで宴会食が多数を占めていれば、それも儲けを減らす要因となっている。
そうした課題解決の方策の1つとして、かねて「オールラウンド」を提唱し続けてきた。オールラウンドとは、タテ割りの業務形態(組織的には所属部署別業務)を廃止して、時間帯で異なるお客の動き(動線)に合わせて、部署の垣根を取り払った「全従業員接客係」のオペレーションを構築することともいえる。あえて「全従業員」と表現したのは、視点を換えると、社員総数(定数)と大きくかかわるからだ。
詳細は次回以降に述べるが、実勢定員と接客係の人数、それと稼働率の関係をシミュレーションすると、方向性の一端がみえる(下表参照=拙著『財務解析・売り方で旅館が変わる』観光経済新聞社刊から転載)。実勢定員とは、年間の総宿泊人数を営業日と販売可能客室数で割った1室平均の宿泊定員だ。団体客からコマ客主体に変化した現在、こうした実勢定員をベースに販売計画を組み立てないと実体と乖離してしまう。
さて、下表は便宜上から実勢定員200人、接客係10人(1人で客20人対応)を想定している。法定基準の労働環境に対応するには、稼働率が70%を超えた場合、10人の接客係だとまかなえない。ただし、年間でこれを捉えると、オン期100%とオフ期50%の差を調整することで、トータル的な意味での整合を導き出すこともできる。この場合、稼働率70%が基準点となる。これを無視した場合、過度な残業代の支給や給与分に満たない労働状況になってしまう。仮に10人で50%稼働だと、実に週休3〜4日に等しい労働環境だ。
そこで、オールラウンド制による社員総数の見直しが、今後の課題として浮上するわけだ。
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