「儲けるための旅館経営」 その34
カギ握る「接客コスト」とは(下)

Press release
  2010.5.1/観光経済新聞

前回、料理提供での接客コストが料飲サービス率(料飲率)を引き上げていると指摘した。また、第32回の稿では、料理提供にあたって1人の接客係が何人の客対応をしているか示した。そこに表れたものは、地域のシーズナリティによる繁閑の差ではなく、夕食の料理提供の仕方が違うことによって、1人で24人対応の月もあれば、17人対応の月もあったと言うことだ。

そうした違いは、要約すれば宴会形式の多い月は対応人数が少なくなり、レストラン形式が多い月は対応人数が増えることを、実際の数字が示したものだった。1人の接客係がより多くの客に対応することで、料理提供にかかわるすべての費用(料飲サービス料)が引き下げられる。そこには、コスト削減の効果があるだけでなく、健全な室料を確保できていれば余力として食材原価を高めることも可能にさせる。いわば、旅館における三位一体の商品力(宿泊と温泉と食事)を強化することにもつながる。

さらに言えば、仮に接客係の1人1日当たり人件費が1万2000円(各種保険など会社負担分を含む)とした場合に、室料に含まれる送迎や案内、呈茶などを除くと約1万円になる。平均消費単価が9000円程度の旅館で、客対応人数による違いをみると、10人と20人では料飲率に約6%の違いが生じている(下表参照)。視点を換えると、GOPを含む室料が、6%増えるか減るかの違いであり、GOP5%アップが今日の旅館経営で至上命題と言われる部分が、実現できるか否かの分岐点にもなっているといえよう。

つまり、32回の稿でみたように、宴会形式で1人の接客係が15人程度の対応では、人件費は増える一方でGOPの目減りが広がるばかりだ。これに対してレストラン形式では、20人以上の対応が可能だ。部屋食形式は、1人が何室を受け持つかで変わるが、1室3〜4人で5〜6室に対応できれば、20人程度でコスト計算ができる。それ以上であっても、部屋ごとに時間差をつければ可能であり、この点は「はじめに部屋割りありき」ではなく、夕食開始時間の確定後に部屋割りをするマネジメントシステムがあれば可能なことを、本シリーズでもすでに何度か紹介してきた。

 要は、一定人数がまとまった宴会形式(団体)は、営業的に効率的な面を否定しないし賑わいの面でも価値はあるが、接客係の人件費効率からみると、決して「儲かる」と言いきれない課題を孕んでいる。

 こうした課題解決の方策の1つとして、かねて「オールラウンド」を提唱し続けている。オールラウンドの基本的な発想は、他部署のヘルプではない。回された部署の一員としての責任が伴うために、全館をあげた仕組みとして構築しなければならない。例えば、経理要員が事務服を和服に着替えてフロントや接客に回ってもいいし、経理経験のある接客係が、帳簿転記などの経理の仕事に回ってもいい。肝心なことは、低単価・低消費の時代対応したマネジメントへ発想の転換を図ることだ。

 このことは、社員総数(定数)にもかかわる。全社員をオールラウンド化して定数を一気に減少させたが、従前のCSを保ちつつGOPをアップさせた旅館の例も、実際にあることを付言しておきたい。