このシリーズのタイトル「儲けるための旅館経営」とは、言い換えれば「どこで儲けて、どこで損をしているのか」を洗い出すことでもある。それによって、いまや旅館にとって当面の至上命題でもあるGOP5%アップを目指すものだ。
かつて、しばしば耳にした言葉の1つに「明かりが灯っていないと客の入りが分かる」と言うのがあった。満館に近い状態の続いたバブル期の話だったと記憶している。それが、バブル崩壊後は、「小まめに電気を消す」といった意識の変化となり、経営状況の厳しさを物語っている。
さて、本題に移ろう。多くの旅館では、電気を消すことをはじめ、さまざまなコスト削減に努めている事実は大いに認められるところだ。不要な電力を使わないことは、冒頭の「損をしている」と考えられる部分の解消にほかならないが、それは必要であっても、経営総体から捉えれば末梢的な事柄に等しい。GOP向上への抜本的な方策は、料理提供にかかわる総掛りコストである料飲サービス料率(料飲率=材料費、厨房や接客コストなど)の引き下げにほかならない。そして、この料飲率で大きなウエートを占めているのが、接客サービスのコストなのだ。ここ数回にわたって述べている従業員の定数化もそうした対応策の延長線上にある。つまり、「どこで儲けて、どこで損をしているのか」を問題視したときに、この課題に行きつく。
ある大型旅館(定員規模は約800人弱)の年間実績に基づいて、「定数化」(従業員総数)に向けたシミュレーションの前段として、現状を分析しておこう。
同館の場合、宿泊者総数が500人を超す日が年間で96日ある(下表参照)。前回、年間で100日が黒字であり、残りは赤字だとのテレビ報道を紹介した。まさに、それに近似な数字が基礎データには表れている。ただし、ここで考えなければならないのは、宿泊者総数ではない。前述の「明かりが灯っている日」と「黒字=得をしている日」は、決してイコールではないということだ。
詳細は次回述べるが、総客数の最も多い7月は、接客要員1人が何人の宿泊者に対応しているかの目安である「指数」が、年間ベースでみた場合4番目になっている。また、客数が年間で4番目に多い10月の指数は、8番目に下がっている。7月はともかく、10月のケースが意味するところは、客数が多くても接客コストが高くついている(儲かっていない)ということだ。
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